地方百貨店の苦境は「仕方ない」こと? 住民の生活を脅かす“大問題”が潜んでいる:小売・流通アナリストの視点(3/3 ページ)
2極化が進んでいる大手百貨店と地方百貨店。また1つ百貨店がない県が増えるなど、厳しい状況が続いている。ぜ地方百貨店がなくなるのか、本当の要因をデータで詳細に分析してみた。
地方百貨店と運命共同体の存在
ここまで一畑百貨店とその環境についてみてきたが、地方における百貨店の経営環境は程度の差はあれ、ほぼ似た状況にある。では、なぜ大都市の百貨店が復活できているのに、地方百貨店は厳しいままなのか。
それは、百貨店の集客力は、立地する街の人流吸引力に大きく依存しているからだ。大都市と地方で何が違うかといえば、都市の規模もさることながら、中心市街地の域内シェアに他ならない。今の地方都市の中心市街地は、大都市におけるターミナルのような地域における存在感を持っていないのである。
図表4〜5は、島根県と東京区部で生活者がどんな交通手段を使っているかを表したものだ。島根県はほぼ完全にクルマに依存しているのに比べて、東京は電車、徒歩、自転車を利用していることが一目瞭然だ。中心市街地とは、公共交通のハブであるから「中心」なのである。クルマに依存した生活は、ハブを経ずに直接目的地に向かうため、人流が集まらなくなってしまう。
地方都市の駅前が閑散としていてシャッター商店街になっているのは、地方の人口減少の度合い(20年で1〜2割減少)を超えた寂れ方であり、駅前の見た目ほど人口は減っている訳ではない。人が駅前にいなくてもクルマに乗って移動しているのであって、かなりの数の人間が実は地域で活動している。
しかし、地方百貨店は、かつてのハブである中心市街地に立地していて、1店舗に全ての経営資源(設備、人材など)を集中しているため、中心市街地と運命を共にするしかない。地方百貨店の閉店問題はその経営の巧拙による問題ではなく、中心市街地としての機能が存続しているか否かが最大の問題なのである。百貨店閉店が意味しているのは、実は中心市街地とそれを支えてきた公共交通自体が危機に直面しているということでもある。
クルマというパーソナルな移動手段が普及した地方において、公共交通を中心とした構造に戻ることなどありえないだろう。しかし、高齢化が進む地方都市では免許を返上して足を失う住民の数は増加。クルマを前提として居住エリアが広域化してしまっている地方都市において、公共交通インフラを維持していくことは大問題となりつつある。地方百貨店がなくなるというのは、それだけにはとどまらない地域インフラの危機の予兆なのだ。
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