「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観(4/4 ページ)
「ホワイト離職」現象が、メディアで取り沙汰されている。いやいや、「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観を考える。
若手が定着し、力を発揮できる会社にするには
リクルートワークス研究所は、若手社員のワーク・エンゲージメント(今の仕事に関連するポジティブで充実した心理状態)を高めるには、心理的安全性とキャリア安全性の両方が必要だと指摘している。
筆者が思うに、10年くらい前の日本の企業は、心理的安全性どころか、マズローの欲求5段階説でいうところの生理的欲求や安全欲求すら満たされない職場が多かった。それゆえに、離職理由の上位は「賃金がよくない」「労働時間・休日・休暇の条件がよくない」といったブラックな職場を想像させる理由が占めていたのだろう。
ところが、世の中全体で働き方改革が進み、人材不足やパワハラ防止法の制定などもあって「若手に優しく」という意識が高まった。その結果、特に大企業では「心理的安全性」が高まり、これまで隠れていた「キャリア安全性」の低さという問題が顕在化してきたのではないだろうか。
だから「ホワイト離職」が増加しているらしいと聞いて「若手を厳しく指導していいんだな」と考えるのは早計だ。それでは心理的安全性が低下して、やっぱり退職者が増える可能性がある。
では、不安な若手を組織の戦力としていくには、どうすればよいのか。
「キャリア安全性」を高めるには「今担当している仕事にはこんな意味があって、評価のポイントはここだ」とか、「この会社でこんな仕事をすることで、こんな力がつく」といった話を丁寧にし、今後の成長やキャリアの見通しを持ってもらうことが重要だ。
また、客観的に見ても「ゆるすぎる」状態では、いつまでも戦力にはならない。成長につながる仕事を与えるべきだろう。仕事の渡し方が雑だと「できない!」「評価が下がるかも」などと思わせて心理的安全性が下がってしまう。やり方や目指すゴールを丁寧に伝え、適切なサポートをすることが必要だ。
現役大学生と日々接する大学教授による書籍『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』(金間大介著、東洋経済新報社)を読むと、今の若者は目上の者の前でとても上手に「いい子」を演じ、なかなか本音を出さないことが分かる。口では「分かりました。頑張ります」と言っていても、「ここでは成長させてもらえない」と感じれば、上司と話し合うこともなくさっさと辞めてしまうかもしれない。
時間をかけて心理的安全性を高め、本音を言える関係性を作ることはもちろん大事だが、その関係ができる前に辞めていかれると元も子もない。社員の性格や心の状態などを診断するサーベイなど、テクノロジーを活用するのも効果的だ。少子化で若手人材がどんどん希少になっていくこれからは、あの手この手で若手の気持ちに寄り添いつつ「ゆるく」ではなく適切に育てていく必要があるだろう。
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やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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