「Facebookを責任追及します」と前澤友作氏が激怒……”権利侵害広告”が蔓延るワケ:本田雅一の時事想々(2/3 ページ)
ここ数カ月、Facebookでは著名人、特にネットで話題になりやすい人物の写真を用いた広告が頻繁に表示されていた。なぜ、権利侵害広告が蔓延っているのか。根っこには、あらゆるデジタル広告が抱える共通の問題がある。
ネット広告については、程度の違いこそあれ同様の問題がさまざまな形で存在している。その理由は後述するが、前澤氏が憤慨しているように、Facebook広告の品質問題が目立っていることは事実だろう。
ここではまずFacebookを中心に話を進めるが、最終的に理解してほしいのは、問題の根っこはFacebook(Meta)の広告だけにあるのではなく、あらゆるデジタル広告が抱える共通の課題に由来しているということだ。
Facebookにとって広告主が、直接的な収入をもたらす顧客であることは事実だ。しかし、広告を収入源にしたメディアの多くがそうであるように、広告スペースの価値を創造しているのはFacebookの利用者である。
つまり、利用者にとって心地よくない広告はメディアとしてのFacebookの明らかなマイナスであり、利用者をだます広告が掲出する事態を放置し続ければ、広告媒体としてのFacebookの価値は下がってしまう。
もちろん、それはMetaも承知していることで、だからこそ掲出できる広告には制限が設けられている。ただし、あくまでも自主的に構築しているシステムでの対策だ。
永遠に続くモグラたたきゲーム
Metaの広告審査については、こちらに審査詳細が書かれている。簡単にいえば、広告主が掲載しようとしている広告内容を自動審査しつつ、並行して人間がその審査結果を監視しているというものだ。
Metaによると、広告はほとんどの場合、24時間以内に広告審査が終わり、掲載可能な状態になるという。24時間……実にあっという間に、世界中から集まる広告申請を審査して掲載するには膨大な処理能力が必要だ。Metaのようにプラットフォームを提供する側は、人の介在をさまざまな意味で避けて、“自動審査”の範囲を広げたい。つまり人間の介在を極力下げたい。
人間が介在することでコストになる上、人間による判断が求められるケースの幅が広ければ広いほどミスも起きやすくなる。ならばシステム開発で、よりフェアに自動判別しておき、際どい判定と思われるケースだけを人間が確認。掲載後に顧客からクレームが多く上がってきた場合はアラートが上がり、人間がその広告をチェックする。
おそらくこうした仕組みになっているはずだ。当然ながら、掲載広告の基準は示されているが、具体的にどのように自動審査のアルゴリズムが動いているかは公開されておらず、常に変化している。
これは永遠に続くモグラたたきのようなものだ。Facebookへの広告は、Metaが提供している広告マネージャを使えば、誰もが簡単にさまざまな条件、属性、予算で掲出できる。
この広告マネージャの特徴は、Facebookユーザーの属性(年齢、性別など個人属性)や過去の投稿、興味を持った情報など、さまざまな切り口でリスティングした相手に広告を打てることだ。言うまでもないことだが、FacebookはSNSの中でも現実社会での立場や属性、日常的な行動、思想が現れやすいこともあり、より細かく広告掲示の対象を指定できる。
問題のあるサイトへの誘導広告を打つ側は、Facebookの広告審査をすり抜けるため、さまざまな巧妙な手段でシステムをだまそうとする。例えば、広告を打つためのアカウントを新規で作成するのではなく、休眠アカウントを集め、そこから広告を出稿するなどして検出を免れようとする。
筆者が追いかけてみた出稿アカウントは、イタリアのジェラート店のしつらいだったが、だまされたふりをして連絡を取り始めるとアカウントの写真などが一気に書き換えられ、いつの間にか中国人の美女が運営する投資勉強会のアカウントになっていた。
ん? この構造はアレと同じ?
おそらくMetaは、出稿の基準を満たさないほとんどの事例を「未然に防いだ」と主張するだろう。実際、多くのケースでMetaは防いでいるのだろう。漏らす水の割合が少ないことを免罪符にしたいのだろうが、手軽に出稿できるデジタル広告は申請の数も多い。アカウント作成が容易でアカウント売買も視野に入れると、質の低い広告が表示されてしまうことは容易に想像できる。
われわれ以上にこうした事態を想像できるのは、システムを開発、運営しているMetaに他ならない。では何ができるかといえば、自動審査の精度を向上させる努力ぐらいしかない、というのが本音だろう。厳密な広告審査は自らの首を絞めかねない。
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