会津若松市のデジタル実装、「幕末の敗戦」に原点? 歴史に根差す市民性:150年前の反省(2/2 ページ)
会津若松市はスマートシティ構想を掲げて10年になる。いち早く自治体のデジタル実装に取り組んだのは、元をたどれば「幕末」にいきつくという。スマートシティ推進室室長の本島靖氏に聞く。
デジタル化の素地、幕末にすでにあり
会津とデジタルとの関係は深い。1993年に創立した会津大学は、日本初のコンピュータ専門の単科大学だ。同大学は「将来の情報科学を支える人材育成を担う」という役割を重視している。
こうした先進技術にこだわる会津の市民性について、筆者が別の取材で話を聞いた別の職員は「戊辰戦争に由来するのではないか」と話す。
150年前の戊辰戦争の局面の一つ、会津戦争で鶴ヶ城を新政府軍に明け渡すきっかけになったのは、新政府軍の持つ当時最新鋭の大砲だった。
「先端技術に敗北した。その歴史を背負っているからこそ、会津の市民は先進技術にこだわりがあるのかもしれない」
もう一つ市民性に影響したと考えられるのが「企業城下町」としての側面だ。高度経済成長期、会津若松市は工場の誘致を積極的に進めた。結果として60年代ごろ、旧・富士通セミコンダクター(現在は富士通に吸収合併)が大規模な工場を建設したことで、従業員とその家族を合わせて2万人近い人々が住むこととなり、地域経済を支えた。
人口が増えたことで行政内の仕事量も増え、効率化が求められるようになる。会津若松市は庁内での電算技術活用に注力し、プログラミングやプロダクト開発を外部委託せず、職員が担当していたという。
こうした経緯もあって、デジタル技術は市民や職員にとって身近だった。「デジタルを好意的に受け入れる」土壌は、150年の歴史によって育まれたといえる。
話を現代に戻そう。震災以降、復興を急ぐ市と、被災地支援や公共分野に乗り出したい企業。双方の思惑が一致する形で、会津若松市ではさまざまな実証実験が行われた。いわゆる「中規模都市」である同地域は、利害関係の調整が複雑な都心部よりも実証実験がやりやすいという“地の利”がある。こうした経験を通して市と大手IT企業は関係を深めていった。
19年に開業したオフィス拠点「スマートシティAiCT」には、アクセンチュア、凸版印刷、TIS、ソフトバンク、三菱商事といった国内外の大手企業や、会津大卒業生によるベンチャー企業など約40社が入居する。会津のスマートシティを進めるコンソーシアムには、約90社が参画している。
サービスの認知拡大が次の課題
今後市が取り組むのは、実装されたデジタルサービスの市民への認知拡大だ。誰もが持つスマホに実装できるサービスができたことで、スマートシティと市民とのタッチポイントは確実に増えている。
「実際に触れた市民からはポジティブな意見を多くいただく」と本島氏。今後はサービスの認知に注力したいという。
スマートシティを掲げてから10年となる会津若松市。市民が利用できるサービスが出そろいつつある中、実際にサービスを利用し、便利さを実感する市民をいかに増やせるか。まさにいまが正念場といえる。
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