西武池袋ストを「無意味」だと言った人へ “小さき声”を過小評価すべきでない理由:働き方の見取り図(3/4 ページ)
ストライキやSNSでの発信――近年、個々の“小さき声”がきっかけとなって、長い間岩盤のように固かった理不尽なルールや慣例に穴が穿たれる事例が増えている。“小さき声”がこれからの職場に与える影響とは――。
閉ざされた世界から声をどう拾うか
ジャニーズ事務所の創業者であるジャニー喜多川氏による性加害は、カウアン・オカモト氏らが発した“小さき声”がトリガーになって社会から制裁を受けることになりました。同時に何十年も前に出版された告発本や週刊誌報道をめぐる裁判なども、時を超えてクローズアップされました。
そして、34年前に制作されたビデオ映像の中で、元フォーリーブスの北公次氏が生前に残した生の声も報じられ、テレビだけでなくインターネット上でも多くの人々の目に触れることとなりました。もし、当時インターネットやSNSが普及していたら、ジャニー喜多川氏の性加害がここまで長く隠蔽されることはなかったかもしれません。
ただ、“小さき声”が社会に届く時代になったことは、進歩ではあるものの、まだ道半ばです。高橋まつりさんが発した“小さき声”は、法制度や職場を変えるほど大きな力を生み出しましたが、最も大切な本人の命は失われました。長時間労働によって人が追い込まれるケースはその後もなくならず、22年5月には甲南医療センターに勤務していた医師、高島晨伍さんが自ら命を絶っています。
職場とは、閉ざされた世界です。そこで法律や倫理に反した事態が起きたとしても、外からは見えません。“小さき声”を発したとしても、その声が社会に広がり、人々に認知されるまでには時間がかかります。その間に、職場の中では事態が進行します。
“小さき声”さえ出すことができない人もいます。障害や病気などによって意思疎通がしづらい状況にある人、そして子どもたちです。ジャニー喜多川氏の性加害や塾講師の盗撮、マッチングアプリを利用したベビーシッターによるわいせつ行為なども、被害者が子どもだったため“小さき声”を出すこと自体が困難な状況に置かれていました。
しかし、“小さき声”を発してもかき消される社会と、個人がネットワークでつながっている社会とでは雲泥の差があります。仮に職場という閉ざされた世界の中で、身近にいる人たちには見て見ぬフリをされていたとしても、個人が脱孤立化している社会では、職場の外にいる理解者とつながりが持てる可能性が生まれます。
そして、子どもたちのように“小さき声”さえ出すことができない人でも、身近にいる人が代わりに声を発してくれたなら同様に可能性が生まれます。いま、教育・保育施設などの子どもが活動する場などにおいて、働く際に性犯罪歴などについての証明を求める日本版DBS(Disclosure and Barring Service)の導入に向けた議論が進められています。
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