「実写版ワンピース」 ネトフリが平気で「映画10本分」以上の予算を投入するワケ:1話あたり約26億円(2/2 ページ)
Netflixが配信する「実写版ワンピース」が話題だ。1話あたりの製作費は日本円で約26億円と破格。なぜNetflixはオリジナルコンテンツにここまでの巨額投資を行うのか。同社の黄金サイクルについて解説する。
伝統的な映画ビジネスに対するネットドラマの優位性
ネットフリックスのオリジナルコンテンツの最初の成功は、2013年に配信された「ハウス・オブ・カード」だ。当時はネット配信のドラマに映画並みの予算をつぎこむことは珍しく、業界の目線も懐疑的であった。しかし、同作の大ヒットを皮切りに、風向きが変わる。
私たちの一般的な感覚として、ネットドラマと映画を比較するとどのように映るだろうか。例えば、権威性や話題性といった観点でみると、筆者はどうしても映画の方に軍配が上がるイメージがある。
しかし、今の時代はネット配信のドラマの方が映画よりもビジネスモデルという観点では優れているかもしれない。というのも、映画の収益は「足が早く、長持ちしない」性質がある。映画というビジネスの主な収益は「チケット」と「円盤」(DVDやブルーレイディスク)に大別できる。チケットは言い換えれば買い切りの視聴権であり、何度も映画館に足を運ぶ熱心なファンを除けば顧客はリピートしない。
また、DVDやブルーレイディスクも買い切りで何度も見られる。しかし、こちらも決済タイミングは一度限りであり、ネット配信の普及により市場は縮小傾向にある。
一方で、Netflixのような動画配信サービスは、サブスクリプション型であり、目当ての作品を見終わった後も解約されなければ課金が継続する。同社の決算資料などを確認すると、直近のNetflixにおける解約率は2.3%と低い水準にとどまる。
確かに、Netflixの解約率をめぐっては22年に値上げしたことで一時的に解約率が5〜10%程度の水準まで高まったものの、値上げ後も残ったユーザーは引き続きサービスに課金し続けているのだ。
つまり、今後ワンピース目当てでNetflixに加入したユーザーのうち、相当数の割合はNetflixを解約することなく、継続的にお金を払ってくれる可能性が高いのだ。
Netflixのユーザーは23年第1四半期の時点で約2億3800万人に達している。会員数の伸びは22年に値上げの影響で一時的にマイナスとなるも、足元では毎月100万人以上のペースで数が増加しており、上昇ペースは加速している。
営業利益は18億2700万ドルと、前年同期比で15.7%増加している。実写版ワンピースの多大な製作費を織り込んでも十分な利益を確保できるはずだ。つまり、万が一実写版ワンピースが振るわなかったとしても、Netflixの財務を左右するようなリスクシナリオはそもそも存在し得なかった。むしろ、低予算の結果としてクオリティが落ち、悪評が蔓延(まんえん)する方が同社にとってはダメージになりうる。
ネットフリックスが莫大な製作費を投じる理由は、ユーザーに質の高いコンテンツを提供しつづけることが、新規ユーザーの獲得とLTV(顧客生涯価値)の最大化につながるという黄金サイクルが完成している点に尽きるのだ。
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