年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
JR東海とJR西日本が、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の3大ピーク時に「のぞみ」を全列車指定席にすると発表した。利用者には実質的な値上げだが、JR3社は減収かもしれない。なぜこうなったのか。営業戦略上の意味について考察する。
実は全車指定席で、JR3社は減収かも?
「年末年始、のぞみ全車指定席」は私の予想以上に報道された。意外だったことは「自由席料金は指定席料金より安い。だから実質的な値上げだ。増収施策だ」という論調だ。これは半分間違っている。自由席利用者にとって値上げになることはその通りだけど、増収施策ではない。増収が目的ならば、むしろ自由席車両を増やして「座れなくてもいい」という客を詰め込んだ方がいい。計算してみよう。
東京〜新大阪間の運賃は8910円、特急料金(指定席)は通常期5810円、年末年始は最繁忙期料金の400円が加算される。指定席の場合は合計1万5120円だ。自由席特急料金は4960円で、最繁忙期加算はない。運賃と合わせて1万3780円だ。差額は1340円になる。大人2人、こども1人だと差額の合計は3350円。往復だと6700円。自由席利用者にとってこの差は値上げと受け止められる。
自由席で最も座席数が多い2号車は、1列5席×20列で100席ある。すべて大人が乗った場合、差額の合計は13万4000円だ。増収した気がする。しかし、自由席車の場合は座れない客が座席間の通路に乗れる。1列に付き2人として、1車両に付き40人。立っている人の収入総額は55万1200円になる。つまり、自由席のままの方が41万7200円も売り上げが大きい。自由席は3両だし、最繁忙期はのぞみが1時間に12本も走る。自由席の指定席化によって大きな機会損失が発生する。
同様の計算は山陽新幹線、九州新幹線でも成り立つ。つまりJR東海も含めたJR3社は全車指定席によって減収になる可能性が高い。自由席利用者にとって値上げ、JR3社にとって減収。両者に利点はなさそうだ。それならば、なぜ「全車指定席」にしたいのか。
私の見立ては「定時性の確保」と「EXサービスへの誘導」である。
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