年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
JR東海とJR西日本が、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の3大ピーク時に「のぞみ」を全列車指定席にすると発表した。利用者には実質的な値上げだが、JR3社は減収かもしれない。なぜこうなったのか。営業戦略上の意味について考察する。
「1年前から予約可能」で旅客機に対抗できる
しかし、EXサービスは「1年前から予約可能」という強みができた。自由席からの比較では高くなるけれど、指定席は正規料金より安い。また年末年始には除外されるけれども、乗車日28日前までに予約すると、席数限定の「EX早特28ワイド」があり、東京〜新大阪間は1万2240円だ。このほか、乗車ポイント還元サービスが始まる。
さらに、EXサービス会員向け専用サイト「EX旅のコンテンツポータル」があり、新幹線以外の旅行商品もある。ホテルや観光アトラクションの予約も可能な「旅のデパート」だ。そのなかには「EXサービス会員限定企画」もある。なお、「EX旅のコンテンツポータル」は10月1日にアプリ内に統合されて「EX旅先予約」「EX旅パック」に進化する。
要するにJR東海としては、お客様に「EXサービス」を強くオススメしたい。新幹線を割引しても、リピーターが増えれば良し。指定席利用者が増えれば定時性の維持につながるし、旅行商品の購入を期待できる。
その「EXサービス」の呼び水が、「最繁忙期も含めて1年前に予約可能」というわけだ。用途は年末年始に限らない。2カ月以上先に行きたいイベント、重要な会議があり、ホテルを確保できたけど新幹線の手配ができない。これでは旅の予定が立たない。一方、旅客機はANAが333日前から、JALは330日前から予約可能だ。それなら旅客機で旅程を確定しよう、となってしまう。
つまりJR3社としては、予約が1カ月前というしばりのために、航空機にお客を奪われていたともいえる。JR3社が訴えたいことは「1年前から予約可能」であり、それを周知するための「今年の年末年始から、のぞみ全車指定席」である。
EXアプリ向けのに用意された「EX旅のコンテンツポータル」。新幹線沿線の二次交通、宿泊、イベントの予約ができる。EXサービスの会員数は22年12月に1000万人に達した。こうなるとEXアプリは単なる指定席予約サービスではなく、旅行ECサイトである(出典:JR東海、EX 旅のコンテンツポータル(9月30日までの運営で、10月1日からは「EX旅先予約」・「EX旅パック」になる))
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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