最低賃金1500円に上げれば解決? “そこじゃない感”が拭い切れないワケ:働き方の見取り図(1/4 ページ)
非正規雇用者が抱える課題は、最低賃金さえ上げれば解決するというものではない――。非正規雇用を形成している各雇用形態の課題とは、どのようなものがあるのか。
今年、最低賃金の全国平均は1004円で過去最高になりました。ネットでは「バイトを始めよう」「物価や税金はそれ以上に上がる」「扶養を外れないようにシフト調整しないと」など、さまざまな反応が見られます。
さらに、岸田首相は2030年代半ばまでに最低賃金の全国平均1500円を目指すと話しました。「1000円超えだ、次は1500円だ」と景気の良い言葉が並ぶと、ついつい目がひきつけられます。
ただ、最低賃金が上がることによって影響を受ける働き手の層は限られます。メインとなるのは、正社員や正規雇用者と呼ばれる人たちではなく、相対的に賃金が低く抑えられている非正規雇用者です。
非正規雇用者にとって、賃金はもちろん重要ではあるものの、抱える課題は多種多様で雇用形態ごとに傾向が全く異なります。それらは、最低賃金が上がれば解決するという類のものではありません。非正規雇用を形成している各雇用形態の課題とは、どのようなものなのでしょうか。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
本当に望んでいるのは時給アップなのか
まず、正規雇用と非正規雇用の平均賃金を見てみましょう。
令和2年版厚生労働白書によると、19年の一般正規雇用者の賃金を時給に換算した金額は、以下のグラフの通り1976円です。短時間正規雇用者は1602円。最低賃金の平均が1000円を超えたとしても大きな影響は受けなさそうな水準です。
それに対し、一般非正規雇用者の時給は1307円で、短時間非正規雇用者は1103円。このデータを見れば、最低賃金の上昇で主に影響を受けるのは、非正規雇用者であることがうかがえます。正規雇用者と非正規雇用者の時給差は大きく、短時間非正規雇用者の時給は、短時間正規雇用者の69%、一般正規雇用者の56%という水準です。
最低賃金が継続的に上昇し1500円へと近づいていけば、正規・非正規雇用者の間にある時給格差は縮まっていく可能性があります。それは多くの非正規雇用者が望んでいることかもしれません。
ただ、本来は正規雇用を希望しているのに不本意ながら非正規雇用で働いている人にとっては別です。いくら最低賃金が上昇したところで課題は解決せず、“そこじゃない感”を抱き続けることになります。本当に望んでいるのは時給上昇ではなく、正規雇用で働くことだからです。
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