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最低賃金アップでも、世帯収入増が期待できないワケ 制度の「ねじれ」を読む10月から最低賃金が変わる(2/3 ページ)

10月から新しい最低賃金が適用され、全国平均で時給1002円になる。最低賃金のアップにより、ここ30年横ばいの世帯収入は増えるのか? 社会保険労務士の筆者は「期待するような世帯収入増にはつながらない」と考えています。その理由と今後の展開を解説。

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政府が最低賃金アップに注力するワケ

 政府が最低賃金アップに注力する理由は、バブル時代のような分厚い中流層の復活です。日本人の賃金は30年間横ばいです。国税庁が調査した「平均給与及び対前年伸び率の推移」では、平成23年から令和3年にかけて平均給与がほとんど変動していません。物価は高騰し、社会保険料の負担増などにより、庶民の生活は苦しくなっています。

 一方、1億円以上の金融資産を持つ、富裕層は年々拡大しています。お金持ちが増えても、その恩恵に預かれるのは、高級宿泊施設や飲食店、ブランド衣服店など富裕層を対象とする一部の人たちに限られます。国内市場を活性化させるには十分ではありません。

 そして何よりも緊急の課題である人口減および少子化に歯止めをかけるためには、安心して複数の子どもを持てる状況、つまり若手の社員や子育て世帯の年収の底上げが必要なのです。そのための一つの施策が最低賃金のアップです。最低賃金法には次のような記載があります。

第1条(目的)

この法律は、賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 賃金が低い労働者には、パート社員、派遣社員などの非正規労働者が多く含まれます。正社員でも10〜20代の社員の中には該当する人もいるでしょう。最低賃金がアップすれば、必然的に新卒社員の給与水準も上げる必要がでてきます。

 例えば、東京都の高校を卒業した新入社員の月給は、10月に引き上げられる東京都の最賃1113円を月額換算すると、税込みで17万8080円(1113円×160時間)になります。2023年度の高卒者の平均は18万3000円とすでに最低賃金を上回っているものの、月額換算した賃金が下回っている企業もハローワークの求人票などには散見されます。

 大半の企業には毎年、昇給制度がありますので、新卒者の最低給与水準を上げるとすれば、在籍者の給与もアップしないと整合性がとれなくなります。つまり社員全員の給与増につながっていくという構想です。

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