急に退職代行を使われた──引き継ぎは依頼できる? 対応はどうしたらいい?:Q&A 社労士に聞く、現場のギモン(2/2 ページ)
急に、社員から退職代行サービスを使った退職連絡があった場合はどうしたらいいのか。引き継ぎとそのための出社の依頼は可能なのか。また、退職の手続きで気を付けるべきことは何か。社労士が解説します。
気を付けるべきこと
次に、退職代行サービスを利用された場合に気を付けることですが、そもそも「退職代行サービス」とはどのようなサービスであるのかということを確認してみましょう。ひとことで言うと、「社員に代わり、退職の意思表示の伝達と退職手続の代行」です。
なお、弁護士資格を有しない「退職サービス代行者(会社)」であれば、退職に伴う残業代や有休消化に関する交渉などを行うことはできません。退職代行者から連絡があった場合には、まずは弁護士資格を保有しているかどうかを確認します。もし、代行者が弁護士ということであれば、会社側も弁護士に相談し、弁護士に対応してもらうことをおすすめします。相手が弁護士でなければ、交渉ごとには応じなくて良いでしょう。
次に、本当に本人からの使者(代行者)であるかどうかの確認も忘れてはいけないと思います。中には、悪意のある第三者が退職代行者を装うことも考えられなくはないからです。慎重に確認しましょう。
また退職届の提出がなければ、本人に作成、提出するよう代行者(会社)に伝えてもらいます。提出後は、念のため、本人が提出したかどうかを確認するため、退職届を会社が確かに受領したことを本人にメールや文書で伝えるのが望ましいでしょう。会社からの電話には出たくない場合でも、メールや文書であれば、万が一、本人自身が退職届を作成、提出していないのであれば、何かしらのリアクションがあると考えられます。
そして、制服や備品など会社からの貸出品の返却を依頼することも忘れないようにしてください。もちろん、本人が直接のやりとりを望まない場合、退職代行サービス経由で返却されます。
最後に、退職の承認を行って終了します。代行者(会社)へだけでなく、本人にも退職を承認した旨、文書などで連絡をすることがトラブル防止のためには良いでしょう。
ちなみに、社員が退職代行サービスを利用し引き継ぎを行わないまま退職した後に、会社が取引先を失うなどの実害が生じるなど悪質と認められた場合には、労働契約における「債務不履行」として、被った損害の賠償を請求することも考えられ、損害賠償が認められる可能性もあります(ケインズインターナショナル事件、東京地裁 平成4年9月30日判決)が、会社側が勝訴することはかなり難しいと考えられています。
そもそも、社員が退職代行サービスを利用して辞めるには、パワハラや過重労働など会社内に問題がある可能性があり、かえってそちらを指摘されてしまう可能性があります。
社員が直接退職することを言い出せなかった原因については、あらためて会社内で精査、検討する必要があるのではないでしょうか。
たまたま、その社員の性格などにより、退職代行サービスを利用しただけかもしれませんが、会社側に原因や問題点があるにもかかわらず放置してしまったために、他の多くの社員も退職してしまったり、場合によってはハラスメントなどの訴えを起こされたりしかねません。
これを契機に、退職の申し出だけでなく、自身の意見や考え、アイデアを一人一人の社員が不安を感じることなく、安心して発信できる職場環境作りを目指すことは、会社のイノベーション、さらなる成長、発展に貢献するでしょう。
著者:近藤留美 近藤事務所 特定社会保険労務士
大学卒業後、小売業の会社で販売、接客業に携わる。転職後、結婚を機に退職し、長い間「働く」ことから離れていたが、下の子供の幼稚園入園を機に社会保険労務士の資格を取得し社会復帰を目指す。
平成23年から4年間、千葉と神奈川で労働局雇用均等室(現在の雇用環境均等部)の指導員として勤務し、主にセクハラ、マタハラなどの相談対応業務に従事する。平成27年、社会保険労務士事務所を開業。
現在は、顧問先の労務管理について助言や指導、就業規則等規程の整備、各種関係手続を行っている。
顧問先には、女性の社長や人事労務担当者が多いのも特徴で、育児や家庭、プライベートとの両立を図りながらキャリアアップを目指す同志のような気持ちで、ご相談に乗るよう心がけている。
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