急に退職代行を使われた──引き継ぎは依頼できる? 対応はどうしたらいい?:Q&A 社労士に聞く、現場のギモン(1/2 ページ)
急に、社員から退職代行サービスを使った退職連絡があった場合はどうしたらいいのか。引き継ぎとそのための出社の依頼は可能なのか。また、退職の手続きで気を付けるべきことは何か。社労士が解説します。
連載:Q&A 社労士に聞く、現場のギモン
働き方に対する現場の疑問を、社労士がQ&A形式で回答します。
Q: 営業部の社員から退職代行サービスを使った退職連絡がありました。当社では初めてのことだったため、急な対応に困っています。
裁量のある仕事を任せていたため、引き継ぎとそのための出社を依頼したいのですが可能なのでしょうか。また、退職の手続きで気を付けるべきことがあれば教えてください。
急に退職代行を使われた──どうしたらいい?
A: 退職予定の社員に引き継ぎのための出社を依頼することは、現実的には難しいでしょう。
本来、退職の意思表示については、直接本人から会社へ伝えるべきところ、退職代行サービスを使って意思表示をしてきた訳ですから、何らかの理由で会社と直接やりとりをしたくないのだと考えられます。
そもそも引き継ぎについては、法律で何か定められているものではなく、しなければならない義務ではないですが、労働契約により当然に生じる業務命令権に基づき、退職時に引き継ぎを「業務命令」することは可能です。
退職が決まっていても、退職日までは労働者であるわけですから、労働契約が継続している以上、会社の業務命令権に社員は従わなければなりません。通常であれば、社員から退職の申し出があり、会社もそれを承諾した場合に、退職時までに引き継ぎを行うよう命令することになります。
なお、退職にあたり有給休暇を消化するとなると、引き継ぎのために出社する日が1日もなかったり、残された出社日では引き継ぎが完了しなかったりするケースもあり得ます。そのような場合には、退職日を後ろにずらしてもらえるよう話し合うなどして、有給休暇の時季変更権を行使し、取得時季を引き継ぎ後に変更してもらうことも考えられます。
この時季変更権は「事業の正常な運営を妨げる場合」という要件を満たす必要がありますが、退職予定者の職種や職務によっては退職時の引き継ぎは重要であり、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するでしょう。
ただし、退職後の就職先が決まっていて退職日を後ろにずらすことができない場合には、有給休暇の買い取りを検討することも考えられます。
また、退職時の引き継ぎ拒否が悪質なケースで、就業規則にその処分の内容と理由を定めている場合には、適正な手続を踏んで懲戒処分を行うことも考えられます。
しかしながら、本件のように、退職代行サービスを利用して退職の意思表示を行ってきたということは、会社と直接やりとりをしたくなく、このまま1日も出社することなく退職したいと考えている可能性が高いでしょう。そうすると、一般的な有休消化についての話し合いも業務命令としての引き継ぎのための出社もほぼ不可能と考えられますし、その結果行った懲戒処分が仮に有効であったとしても、引き継ぎのために出社はまずないと考えてよいでしょう。
最低限の引き継ぎとして、代行業者を通して「引き継ぎ資料を作成、送付してもらうこと」などを伝えてもらうという方法は考えられるのではないでしょうか。
そして、引き継ぎを行わないからといって、退職を妨害することはもちろんできません。
つまり、退職者が引き継ぎを拒否して退職をしてしまったらそれまでで、懲戒処分しようがしまいが、業務に支障が出ることは避けられません。
従って、会社としては日頃から、引き継ぎがされないまま退職にいたってしまう場合などの最悪の事態を想定して備えておくことも大切でしょう。
例えば、退職時のケースだけでなく、病気やケガなどの欠勤時のケースでも有効な考え方ですが、業務や業務に伴う情報については社員間の共有をしておくと良いでしょう。現在は、情報やデータなどをクラウドサーバー上で保存、共有が可能な時代ですから、複数人での管理は行い易いと思います。
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