アップル「2030年カーボンニュートラル達成」の本気度 7年で何ができるのか?:本田雅一の時事想々(2/4 ページ)
アップルの新製品発表会で、ティム・クックCEOは、2030年までにカーボンニュートラルを実現すると話した。生産や流通はともかく、製品自身が消費する電力まで含めるのは「いささかハードルが高すぎるのではないか?」と思う読者もいるだろう。アップルはどんなことに取り組んでいるのか。
一つはオフィス、データセンター建設、運用コストについてカーボンニュートラルにすることだが、これはすでに20年に達成している。例えば、日本の場合も六本木のオフィスは再生可能エネルギーを用いるなどカーボンニュートラルを達成済みだ。
もう一つはサプライチェーンの見直しで、採用する素材やパートナーから調達するコンポーネントの生産に至るまでカーボンニュートラル化を進めている。
残る一つの目標が製品そのものの生産、流通、運用、廃棄に関するもので、30年から7年前倒しで実現したのがApple Watchということだ。
カーボンクレジットは最小限に
アップルのカーボンニュートラル戦略はシンプルだが、ブランド品などを展開する大手ファッションブランドのアプローチとは異なる。
多くの場合、高級ブランドは質感やモノとしての価値を下げないよう、以前から使われている伝統素材を使い続けることにこだわる。
例えば、革製品ならば、その原材料の調達がフェアトレードで行われ、環境負荷の低いケミカルで処理されているか、生産過程で廃棄される素材の削減や再生などを全面に押し出した上で、最後はカーボンクレジット(炭素吸収プロジェクトから吸収量を購入するなど)で解決する。
耳あたりの良い言葉が並ぶものの、現実に製品生産時に排出される炭素量削減よりも、ブランド価値を生かした資金で、森林開発などを通じたカーボンクレジットへの投資で相殺しているのが実情だ。
対してアップルは、製品に使う素材そのものを見直している。象徴的なのは革製品を全廃したことだ。アップルはiPhoneのケースなどアクセサリー類、Apple Watchのストラップに皮革を使った製品を少なからず用意してきたが、今年からは全廃した上で新しい環境負荷が低い合成素材を提案している。
前述したように、ファッション業界では質の高い皮革製品を「カーボンニュートラルを目指しながら、いかに使い続けるか」を模索しているが、アップルは早々にその議論から撤退した。カーボンクレジットで解決するのではなく、製品開発全体で炭素排出量を削減することを出発点とし、できることをやり尽くすためだ。
最終目標は「全て再生素材に切り替えること」
まず、製品に使う材料を再生可能な素材に切り替え、さらに再生素材のみで従来と同じ品質の製品を生み出す研究・開発を続けている。
これは以前から取り組んでいることだ。アップルはiPhoneをはじめ自社製品の回収・分解工場を運用している。素材ごとに分離し、新しい製品を生産する際の材料へと還流させてきた。Apple Watchでいえば、Series 5以降は全てアップル製品から取り出したアルミをフレーク状にした上で、再生させたものだ。
各種通知に用いるTapTicsエンジンにはタングステンやレアアースの磁性素材を用いているが、これも100%再生材料。アルミだけではなく、現代のスマートフォンにはさまざまな種類の金属類が使われているが、それらをどのように分離し再生するか、長年研究した成果だ。
特にレアアースに関しては、それぞれ種類ごとに生産地が限定されていることがほとんどだ。供給源を多様化したくとも選べないことが多い。そこで寿命を終えた製品から回収して再利用する循環システムを作り上げてきたわけだ。
こうした回収と再利用の技術を開発する中で、化学合成された素材の再生も行っている。例えば現在販売しているApple Watch用ストラップの中でも、スポーツループは成分の82%が再生繊維だ。
今回発表したApple Watch Ultra 2のチタンケースは再生チタンに切り替わり、iPhone 15/15 Proで使われているバッテリーのコバルトも再生コバルトへと切り替わっている。今後もこうした取り組みを継続し、いずれは(技術的に可能な)全ての素材を再生素材へと置き換えていくことを目標に掲げている。
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