アップル「2030年カーボンニュートラル達成」の本気度 7年で何ができるのか?:本田雅一の時事想々(3/4 ページ)
アップルの新製品発表会で、ティム・クックCEOは、2030年までにカーボンニュートラルを実現すると話した。生産や流通はともかく、製品自身が消費する電力まで含めるのは「いささかハードルが高すぎるのではないか?」と思う読者もいるだろう。アップルはどんなことに取り組んでいるのか。
生産時・製品使用時の電力もクリーンに
前述したようにアップル自身の企業活動で用いている設備は、その全てがカーボンニュートラルになっている。それぞれの地域ごとに、再生可能エネルギーを用いた電力に切り替えるなどして実現しているが、Apple Watchのカーボンニュートラル化に際しては、パートナーがコンポーネントを生産、あるいは最終アセンブリに使うときの電力を全てクリーン電力に切り替えた。
実はこの取り組みは急に始めたものではなく、15年から順次進めてきたものだ。アップルサプライヤー・クリーンエネルギープログラムというもので、アップル自身がサプライヤーと協議、支援しながら進めており、現在300社以上がコミットしている。これは全サプライヤーの90%に相当する。
そして極めてユニークなのが、ゴールドマンサックスと共同で進めているクリーンエネルギーファンドだ。このファンドにアップルは1億ドルを投資し、森林や湿地帯の開発、保護を通じて炭素吸収を増やすプロジェクトを進めてきた。今後、さらに2億ドルを追加投資し、炭素吸収をカーボンクレジットとして流通させ、ビジネスとして成立するようエコシステムの確立を目指している。
Apple Watchのカーボンニュートラル化では、ここのファンドが生み出している炭素吸収ソリューションが活用されている。
Apple Watchを使用する際、実際に使った電力や地域などを提供してもらうようユーザーに承認してもらい、使用モデルと実際に充電した地域などから使われている電力が、どのような由来のものかを推定。再生可能エネルギー以外の電力消費分をファンド分から相殺する。
さらに日本ではまだ利用できないが、アップル製品で利用可能なウィジェットを通じてグリッドフォーキャスト(電力予測)アプリケーションを提供する。これは、それぞれの地域における電力網で、時間帯ごとに「どのような由来による電力か」を予測。最も環境負荷が低い時間帯に充電する計画を、ユーザー自身が立てられるようにする。米国で始まっているこのサービスは、時期こそ未定だがグローバルに展開する予定だ。
カーボンクレジットでの解決は「Tシャツ1枚分」
Apple Watchの場合、輸送時の炭素排出は全体の6%に抑えらえたという。世界中に流通していることを考えれば、極めて少ない比率に抑えられている。輸送時の炭素排出戦略はパッケージの再設計と航空輸送の減少の2つが大きな要素だ。
新しいApple Watchは従来よりも20%小さな梱包になり、その結果、一つの輸送パレットに載る製品数が25%多くなっている。それだけ同時に輸送できる製品数が増加するということだ。また製品全体の50%に相当する重量について、海上輸送に切り替えている。航空輸送との比較では95%も炭素排出量が少なくなるが、当然、輸送にかかる時間は長くなるため、輸送時の戦略は複雑なものになる。
これらの結果、一つのApple Watchを生産・流通・運用するための炭素排出量は75%を削減した。残りの25%は、わずかに8キロ程度となる。これは真っ白い無地のTシャツを1枚生産するときに生まれる炭素排出量に相当する。この25%には、第三者が検証した森林、湿地など自然由来の炭素除去ソリューションから購入するカーボンクレジットを用いる。
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