新型センチュリーに見える形 これがSUVではない理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
筆者は新型センチュリーを見た時、なるほどこれはセンチュリーだと思った。まずもって、センチュリーに見えるという最初のハードルを越えられなければ何もスタートしない。新型センチュリーはそれを越えてきたのだ。
新型センチュリーは、センチュリーセダンのこの側面の形を相当意識して取り入れた。センチュリーは外観的に独立したリヤのトランクを持たない。そのためリヤピラーの下に明確な段差を設けて、間違ってもピラーとつながって見えないように厳重にデザインしてある。センチュリーセダンのピラーにあるエンブレムが新型センチュリーにはないのは、ピラーに注意がいかないようにするためだ。ここはピラーと側面パネルのコントラスト差を付けたい部分なので、可能な限りピラーの存在感を落としている。そのためにはエンブレムは邪魔になる。
さらに、ショルダーラインを強調するように、ラインをトレースするプレスラインを入れて、子持ちにしている。それは側面パネルのひとつながりの形を強調し、目立たせるためである。矩形を描く上辺を目立たせたなら、それを受けて支える下辺をそれにバランスさせて強調する必要がある。幸いなことにこのボディ形状は上下に厚いので、フロントバンパー下部からロッカー部を経由してリヤバンパー下部までつながる化粧プレートを太く強くデザインすることで、バランスが取りやすかった。
さらにそこに大きなアクセントを与えるホイールのデザインを、セダンと同じ印象になるように造形した。ホイールサイズが大きいために、大きさが変わっても同じ雰囲気に見えるよう、スポークの本数を減らし、放射状に外へいくほど太くした上で、長いスポークが間抜けに見えないように途中に段差を設けてバランスを取ってある。完全に同じようにデザインするのではなく、サイズ差を補完して同じに見えるように丁寧に細工が加えてあるのだ。
だから新型センチュリーのデザインは、デザインセオリーからいえばSUVのそれではなく、セダンの文法に則っている。明確なショルダーラインを通し、ショルダーラインの下の伸びやかで力強いパネル面をしっかり見せる。
その上に載るキャビンは、可能な限り存在感を消している。アッパーボディとロアボディの2つの塊を組み合わせた作りはセダンの基本造形である。セダンと違うのは、後ろまで引っ張って後端部位置とリヤピラーの終端を合わせたこと。だからこれはSUVのデザインではなく、セダンのデザインなのである。
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