日立社長「生成AIは歴史上のブレークスルー」 “電力需要6倍”にどう対処する?:「AI普及」の課題を指摘(2/2 ページ)
日立製作所の小島啓二社長兼CEOは生成AIに対する日立の考え方を明示した。日立が生成AI開発にどのようなビジョンを抱いているのか。筆者がレポートする。
電力需要6倍にどう対処する?
世界がAI新時代を迎える中、さまざまな課題もある。AIの信頼性の確保や著作権の保護、倫理面の問題だ。これらは既に社会で大きく議論が進んでいて、法規制の動きもある。これらに加え、日立ではエネルギー消費の増大をいかに抑え、対処していくかも重要な課題だと考えている。
小島社長が警鐘を鳴らす。
「AIはデータセンターで大量の情報処理を行うため、大量の電力を消費します。30年には国内のデータセンターの電力需要が、10年時点の約6倍に達する予測もあります。このままではAIの普及によって環境負荷が逆に大きく増えてしまうことになりかねません。こうした事態を改善するためには、再生可能エネルギーのさらなる有効活用に、社会全体で取り組んでいくことが大変重要です」
こうした中、日立は東京電力パワーグリッドと共同で新しいエネルギーマネジメント技術を開発している。これにより、データセンターでのさらなる再生可能エネルギーの活用を目指す。
「日立は社会のインフラをサポートする企業として、AI普及による明るい未来だけでなく、エネルギー問題などAIが抱える課題についてもしっかりと取り組んでいきます」(小島社長)
生成AIが急速な発展を見せる中、日立は24年1月に、創業者である小平浪平の生誕150周年を迎える。そして1910年の創業後、小平浪平が最初に作った製品が5馬力モーターだった。この5馬力モーターは、日本人が初めて設計製造したモーターだ。
ここに始まる日立の創業理念について、小島社長はこう説明する。
「当時の日本は、産業機械のほとんどが海外からの輸入品でした。そのような中で、小平らは日本の成長のために、国産の技術と機械を開発したいという強い意志を抱きました。この意志が5馬力モーターと、その後に続くさまざまなイノベーションを生み出す原動力となったのです」
日立が国産初のモーターの設計製造に成功しても、今度は製品の品質をいかに安定させるかが課題となった。小島社長は、ここにも日立の理念が受け継がれているという。
「小平は品質問題に対して対処療法をしていては駄目で、なぜその問題が起きるのか、その根本原理の解明、すなわちサイエンスの探求こそが重要だと考えました。この探求が日立研究所の出発点になっています。この日立のイノベーションを支えている意志、行動、情報、科学は創業期に小平によって形作られ、今日まで私どものDNAとして引き継がれています」
生成AIによって社会はどうなっていくのか。小島社長は、こうまとめる。
「生成AIの登場で、社会はこれから大きく変わっていくでしょう。AIは圧倒的な速度で圧倒的な量の情報を活用し、私たちにさまざまなアイデアを提案してくれることでしょう。しかし、これだけでは決してイノベーションは起こせません。社会をより良くしたいという人間の意志と、行動こそがイノベーションを生み出す原動力であること。これこそがAIには決してまねできない、人間固有の力です」
AIがイノベーションを起こすのではなく、イノベーションを起こすのは人間の意志だと話す。AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」が、早ければ2025年に迎える見方もある中、心強い言葉といえるかもしれない。
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