そごう・西武は「対岸の火事」ではない 61年ぶりのストライキから学ぶべきこと:小売・流通アナリストの視点(1/3 ページ)
8月31日、西武池袋店はストライキにより臨時休業となり、百貨店業界では61年ぶりのスト実行として話題となった。労使協調が一般的となった日本で、なぜ大手百貨店のストライキは行われたのか。そして、このストライキからビジネスパーソンが考えるべきこととは?
【編集履歴:2023年10月12日10時0分 初出時の記事タイトルを修正しました。】
8月31日、西武池袋店はストライキにより臨時休業となり、百貨店業界では61年ぶりのスト実行として大きなニュースとなった。テレビ各局はそごう・西武労組の組合員がデモ行進する映像を流し、他社百貨店の労働組合が応援に駆け付けた姿があったことも取り上げられた。
労使協調が一般的となっていた日本で、なぜ大手百貨店のストライキは行われたのか。その直接の原因としては、親会社であるセブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)が、売却後の従業員の雇用維持と百貨店事業の継続に関して、労組に対して十分な説明をしなかった、と報道されている。どうしてそんなことになったのか。
なぜ百貨店を不動産ファンドに売却したのか
セブン&アイが、そごう・西武を不動産ファンドであるフォートレス・インベストメントに売却し百貨店事業から撤退することは、2022年11月に発表されているが、この方向性自体はなんら問題のある話ではない。しかし、このM&A案件は百貨店を小売業に売却するというのではなく、不動産ファンドが経営権を握ることから「そごう・西武という百貨店が維持されないのでは」という懸念が生じている。
不動産ファンドとは、ざっくり言うなら投資した企業の経営権を握り、その所有不動産の有効活用などを通じて企業価値を極大化することで、投資利益を確保するという組織である。不動産価値を最大化させるためには、これまでの収益実績を考えれば、店舗不動産を百貨店として使用し続けること自体がファンドの出資者に対して説明がつかないのである。
百貨店事業が十分な利益を生むのであれば、不動産ファンドが出る幕はなく、とっくに小売業者が買い手として名乗りを上げている。百貨店では十分な収益はあげられないと誰もが判断したから買い手が不動産ファンドになったのだ。そごう・西武の不動産は店舗ごとに次の利用者を求めていくため、遅かれ早かれ、そごう・西武という企業が百貨店事業を縮小、事業転換せざるを得ないことは、関係当事者の誰もが分かっていたことなのである。
関連記事
- なぜ「半額ショップ」はイマイチなのに、絶対王者オーケーは伸びているのか 「安売り」の手法に違い
最近「半額ショップ」という新しい業態の小売チェーンが各地で勃興している。値上げが相次ぐこのご時世、多くの消費者の支持を得られるかと思いきや苦戦気味だ。そこにはある盲点があった。 - 拡大続くドンキ帝国 「長崎屋」「ユニー」買収で限界突破できたといえるワケ
ドン・キホーテを中心とした小売グループであるPPIHが、目覚ましい躍進を続けている。この30年における日本の小売業で最も成長した企業といってもいいだろう。PPIHが国内屈指の売上規模にまで成長した背景には何があるのだろうか。 - なぜ、イトーヨーカ堂とヨークは合併するのか 見据える3年後の布石
セブン&アイ・ホールディングスは6月16日、イトーヨーカ堂とヨークを9月1日に合併すると発表した。「物言う株主」たちがイトーヨーカ堂の撤退も含んだ改革を経営陣に要求し続けている中、今回の合併にはどのような狙いがあるのだろうか。小売・流通アナリストに聞いた。 - そごう・西武“最終手段”ストライキ発動 要因は“物言わぬ”セブン
そごう・西武の労働組合は8月31日、西武池袋本店でストライキを予定している。ストライキという“最終手段”に発展した要因として、小売・流通アナリストは「売却後の雇用について明言されず、ここまでもつれた」と指摘する。 - 覇者イオン、コスモス、カインズに勝てるのか 中堅中小の「合従軍」戦略
スーパー、ドラッグストア、ホームセンターの上位企業の多くがM&Aで規模を拡大してきた。上位企業による下位企業の買収というのが自然と多くなる一方、下位企業が同盟するように経営統合して対抗するというパターンもある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.