そごう・西武は「対岸の火事」ではない 61年ぶりのストライキから学ぶべきこと:小売・流通アナリストの視点(2/3 ページ)
8月31日、西武池袋店はストライキにより臨時休業となり、百貨店業界では61年ぶりのスト実行として話題となった。労使協調が一般的となった日本で、なぜ大手百貨店のストライキは行われたのか。そして、このストライキからビジネスパーソンが考えるべきこととは?
百貨店存続とヨドバシカメラの立ち位置
ちなみにこの事例には、ヨドバシカメラという企業名がファンドのパートナーとして頻繁に登場するが、ヨドバシは売却されるそごう・西武の株主になる訳でもなく、経営面では関与する立場ではない。
ヨドバシはファンドが経営権を握った後に、池袋・渋谷・千葉の店舗不動産を買い取り、自らが所有する不動産に当然に出店する、という関係だ。店舗の大家としてヨドバシの構想による売場を再構築するのであり、前の所有者である百貨店そごう・西武は、当初、ヨドバシ以外の場所にテナントとしてとどまることを認められているという立場になる。
だからこそ、そごう・西武労組は、売却後の百貨店事業の存続と雇用維持について問いただしたのであるが、セブン&アイは明確な答えを示さなかったため、労組サイドは経営陣への不信感を募らせていった。セブン&アイは「売却後も雇用には最大の配慮がなされる」ということを繰り返し、売却後の売場計画などが決定していないので、詳細は不明としてはっきりした回答を避け続けたとされている。
しかし、池袋・渋谷・千葉が大家ヨドバシの出店した残りにとどまるということは、この3店舗の百貨店売場が大幅に縮小になることは確実だ。またヨドバシが取得しない他の店舗についても時間の問題で、同様に他社に売却されることは間違いない。でないと、不動産ファンドとしてそごう・西武の不動産を有効活用して、投資収益を極大化することができないからである。
ということを踏まえれば、労組が経営に問うている「雇用維持、百貨店の存続」に関しては、雇用の大幅縮小は避けられず、百貨店としての存続は極めて厳しい、ということは自明であろう。労組がスト権を行使して回答を求めるのも至極当然である、ということが分かっていただけると思う。
そごう・西武の労組がストライキをしてまで回答を求めねばならなかったのは、客観的にみて関係当事者の誰もが、雇用の維持や百貨店の存続に大きな影響があることを知りつつ、知らん顔をしていた経営陣の不誠実な対応が原因である。明確な説明を避け続けたセブン&アイ経営陣の対応を、労組が受け入れることは、従業員を代表する組織として看過しえない。
関連記事
- なぜ「半額ショップ」はイマイチなのに、絶対王者オーケーは伸びているのか 「安売り」の手法に違い
最近「半額ショップ」という新しい業態の小売チェーンが各地で勃興している。値上げが相次ぐこのご時世、多くの消費者の支持を得られるかと思いきや苦戦気味だ。そこにはある盲点があった。 - 拡大続くドンキ帝国 「長崎屋」「ユニー」買収で限界突破できたといえるワケ
ドン・キホーテを中心とした小売グループであるPPIHが、目覚ましい躍進を続けている。この30年における日本の小売業で最も成長した企業といってもいいだろう。PPIHが国内屈指の売上規模にまで成長した背景には何があるのだろうか。 - なぜ、イトーヨーカ堂とヨークは合併するのか 見据える3年後の布石
セブン&アイ・ホールディングスは6月16日、イトーヨーカ堂とヨークを9月1日に合併すると発表した。「物言う株主」たちがイトーヨーカ堂の撤退も含んだ改革を経営陣に要求し続けている中、今回の合併にはどのような狙いがあるのだろうか。小売・流通アナリストに聞いた。 - そごう・西武“最終手段”ストライキ発動 要因は“物言わぬ”セブン
そごう・西武の労働組合は8月31日、西武池袋本店でストライキを予定している。ストライキという“最終手段”に発展した要因として、小売・流通アナリストは「売却後の雇用について明言されず、ここまでもつれた」と指摘する。 - 覇者イオン、コスモス、カインズに勝てるのか 中堅中小の「合従軍」戦略
スーパー、ドラッグストア、ホームセンターの上位企業の多くがM&Aで規模を拡大してきた。上位企業による下位企業の買収というのが自然と多くなる一方、下位企業が同盟するように経営統合して対抗するというパターンもある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.