カリスマ上司に罵倒され成長……パワハラとプレッシャーの境目はどこに?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
カリスマ経営者のパワハラ問題が週刊誌で報道された。優秀な指導者による厳しい指導やプレッシャーにより組織や個人が成長することは少なくない。では、パワハラとプレッシャーの境目はどこにあるのだろうか。
科学的に証明された「プレッシャーの効能」
先に結論を言いますと、件の男性が指摘するとおり「プレッシャーをかける」ことで、個人に内在する潜在能力が引き出されることは、科学的にも証明されています。
そのきっかけとなったのが、米国の心理学者のロバート・ヤーキースとJ.D.ドットソン博士のネズミを使った研究です。
実はプレッシャーに関する研究はかなり古くからされていたのですが、20世紀初頭は「プレッシャー=悪」と捉えるのが一般的でした。プレッシャーがかかると、人間はあがってしまい、パフォーマンスが低下する――。そんな風に考えられていたのです。
それに異論を唱えたのが、ヤーキースとドットソン博士です。
実験では最初に、ネズミに黒と白の目印を区別するように訓練をしました。ネズミが間違えた時には、電気ショックを流し、学習を促すことを繰り返します。電気ショックの程度は強弱を変えて設定し、これをプレッシャーの強さに置き換えました。
その結果、電気ショックの程度が強まるにつれて、ネズミの正答率が上昇することが明らかになりました。プレッシャーが強まれば強まるほど、パフォーマンスが上がったのです。
ところが、何度か実験を繰り返すうちに、ある一定の強さを上回ると正答率が低下することが分かります。プレッシャーが強まれば強まるほど、今度はパフォーマンスが下がってしまったのです。
つまり、プレッシャーとパフォーマンスの関係は、逆U字型の関数グラフとなり、電気ショックの程度が適度な時に、ねずみは最も早く区別を学習し、逆に電気ショックが弱すぎたり強すぎたりすると学習に支障が出る。
そこで博士らは、プレッシャーのないリラックスした状態では真の力は発揮されず、パフォーマンスを最高水準に引き上げるには、プレッシャーが必要だとしました。しかしながら、プレッシャーがかかりすぎると、それがストレスとなり、再びパフォーマンスは下がるという結論に至ります。
これが有名な『ヤーキース・ドットソンの法則』です。
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