なぜ西武鉄道は中古を購入するのか 東急と小田急にも利点がある:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
2023年9月26日、東急電鉄と小田急電鉄の中古車両を西武鉄道に譲渡すると、3社連名で発表した。今回は日本の鉄道史上極めて珍しい事例で、鉄道事業経営の面からも興味深い。そしてこの西武鉄道発案の電車売買は、結果として3社にとって利点のある提案だった。
「つなぎ」だからサステナでちょうどいい
西武鉄道の目的は「無塗装」よりも「VVVF車両」の優先度が高い。VVVFは「VVVFインバータ制御」の略で、半導体技術を用いて電圧と周波数を制御し、交流モーターを効率よく回転させる技術だ。従来の「界磁チョッパ制御」はスイッチのオンオフ回数で電圧を制御し直流モーターを回す。「抵抗制御」はもっと前の技術で、電圧制御に抵抗器を使って直流モーターを回す。もったいないことに、余剰電力を熱に変換して放出する。
西武鉄道は30年度までに全車両をVVVF化したい。差し当たりVVVF車両が100両欲しい。しかし都合よく100両も引退させる鉄道事業者はない。東急電鉄にしても、西武鉄道向けの引退車両捻出するために新造車両を余計につくる余裕はない。だから複数の鉄道事業者を当たり、塗装車両でありながらVVVF車両の小田急8000形を選んだ。
東急電鉄も小田急電鉄も早期からVVVFを用いて省電力化を進めている。いまや古いVVVF車両を新しいVVVF車両で更新する段階に入った。しかし西武鉄道ではまだ古い方式が残っている。23年3月31日現在、界磁チョッパ制御の2000系電車は328両、抵抗制御の101系電車は28両、合わせて356両も残っている。電力消費が多い、イコールCO2排出量が多いわけで、これをいち早くなんとかしたいわけだ。サステナ車両を100両導入すると、年間でCO2を約5700トンも削減できる。これは約2000世帯の排出量に相当するという。
西武鉄道は、これらの古い車両を主に支線で運用している。そこで、新宿線や池袋線の幹線に新造車両40000系を増備し、支線やローカル線にサステナ車両を充当する。古い車両でよいのかといえば、よいのだ。サステナ車両も寿命を迎え、いよいよ廃車となる頃には、新宿線や池袋線からちょうどいい自社の中古車両が降りてくるだろう。しかし、それを待たずに支線にもVVVF車を導入したい。だからサステナ車両である。自社の中古の出物があるまでサステナ車両を受け入れるかもしれない。
ちなみに、新造車両を100両つくった場合は、製造時に約9400トンのCO2を排出する。東急電鉄と小田急電鉄は車両廃棄時に合計約70トンのCO2を排出する。サステナ車両の導入でこれらのCO2排出を削減できる。
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