トヨタの未来を全部見せます:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)
トヨタ自動車は、国内のメディアを招待し、愛知県内の3つの工場、貞宝工場、明知工場、元町工場で、トヨタの未来技術とその考え方を公開した。具体的にいえば、デジタル技術を軸とし、個々の製造技術の大幅な刷新がそれに加わるとどうなるかを示したものだ。
生産技術と生産現場の「DX」
具体的にいえば、デジタル技術を軸とし、個々の製造技術の大幅な刷新がそれに加わるとどうなるかを示したものだ。2015年以降、車両の開発がモデルベースドデベロップメント(MBD)で大幅に進化してきたことを援用し、生産のMBD化の可能性を示すものとなっている。MBDとはつまりコンピュータシミュレーションによって、開発期間を短縮するとともに、試作などを減らしてコストの大幅な削減を進め、最適設計により早く精密に近づけることを目的としたものだ。これによってすでにトヨタは利益の増大を果たしている。
例えば新型クラウンシリーズは、4台のモデルを設計しつつ、従来の2台分以下の開発コストに抑えると共に、短期開発を成功させた。あるいは生産設備の汎用化、混流化を進めることで、新型車投入に際してのリニューアルコストを大幅に削減し、損益分岐台数をかつての6割まで落としてみせた。今回は特にこの後半部分にスポットを当てて、工場での変革を見せようという企図である。
少々陳腐だが、聞いたことのある言葉で言えば、工場の、それはつまり生産技術と生産現場の「DX」である。ただし、ここでいろいろ分かりにくくするのが、工場はリアルな現場であることだ。例えば「DXとはコンピュータ化、デジタル化、省人化である」と言い切り、無人でどんどん生産できるという風にいってしまえば話は圧倒的に単純で分かりやすい。
しかしながらむしろコンピュータに詳しい人は分かるはずだが、なんでもかんでもコンピュータにやらせるのは効率が悪い。人とコンピュータ、それぞれに得意不得意がある。だから人の優れた面とコンピュータの優れた面を併せてより大きなカイゼンを進める。トヨタの本当の強みはこうした「現実主義」にあるのだが、現実主義の話は必ず条件分岐を含み、話がややこしくなる。
例えばギガキャスティングである。米テスラのギガプレスの説明は「80個以上の部品を加工して溶接していたものがアルミ鋳造部品1個になる」というものだ。大変分かりやすい。現実をいろいろ無視して、同じ説明にしておけば理解が得やすいとは思うが、トヨタとテスラでは車種の数が違う。テスラは基本車系が少ない。というか少し乱暴にいえば実態としては1種類のようなものだ。
それに対して、トヨタはフルラインアップメーカーであるがゆえ、さまざまな車種ごとのプラットフォームを構成するために、少なくとも数種類のダイキャストフレームを作り分けなければならない。そのため金型部を分割式にして、これを交換可能にしている。
しかしそれをやろうとすると、問題になるのは大型の高圧鋳造機の金型交換の非効率さである。従来、そうした金型交換には24時間を要していた。それではギガキャストを入れることでかえって効率が悪化する。そこでトヨタは金型部の脱着を容易にして、20分でそれを行えるようにし、これによってギガキャスティングを多品種少量生産に対応させた。
テスラにはいらないものかもしれないが、仮に今後、テスラがうわさの通り2000万台メーカーを目指すのであれば、こうした工夫が必要になってくる。一つのプラットフォームで展開できるバリエーションだけで、2000万台のクルマを生産するのは不可能だからである。
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