トヨタの未来を全部見せます:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
トヨタ自動車は、国内のメディアを招待し、愛知県内の3つの工場、貞宝工場、明知工場、元町工場で、トヨタの未来技術とその考え方を公開した。具体的にいえば、デジタル技術を軸とし、個々の製造技術の大幅な刷新がそれに加わるとどうなるかを示したものだ。
全固体電池 本命はバイポーラ型リン酸鉄バッテリー
少し本筋からズレた話になったので、ついでにもう一つのトピック、全固体電池の話もしてしまおう。トヨタは確かに全固体電池の開発を進めており、実用化のスケジュールも発表しているが、筆者が見る限りそれはまだ当分主力にはならない。当面コストが高いし、おそらくは大容量の高価格モデル専用になると思われる。
そしてそれだけの大容量電池を充電する環境を全国に用意するのはだいぶ無駄である。トヨタブランドの普及用BEVには必要ない「高コストな高性能充電器を数多く設置する」ことでメリットのあるユーザーは限られているからだ。
それだけの充電性能はフラッグシップモデルなど限られたモデルしか享受できない。おそらくは、ポルシェのターボチャージャー充電器同様、フラッグシップ充電器として、レクサスの一部ディーラーに高出力充電器を置くという形でしばらくは様子を見ることになるはずだ。
むしろ、本命はバイポーラ型リン酸鉄バッテリーである。このバッテリーは、従来エネルギー密度的に課題があったリン酸鉄バッテリーを、正負極を一枚の集電体の表裏に形成することで、電流の流路面積を増やした新構造を持たせることで改善する意欲的なものだ。端的にいって安く、発火しにくく、電力を求められた時の立ち上がり電流が強い。
従来、車両動力用サイズのバイポーラ型の量産は難しいといわれていたが、その課題を解決したとトヨタは主張する。今回の発表では、正極と負極を構成するスラリーを精密に均一に塗布する装置に加え、そのスラリーを塗布され、乾燥された集電体を、ミルフィーユ状に正確な位置決めで積層する量産システムのプロトタイプロボットが紹介された。スラリーの塗布精度と積層精度の問題がクリアされれば、これまで困難だったバイポーラ構造の大規模量産が可能になり、リン酸鉄バッテリーの課題を解決する大きなアドバンテージになることが予想される。
BEVの普及モデルを支えるのは、おそらくこのバイポーラ型リン酸鉄バッテリーになるだろう。バイポーラ式のメリットによってエネルギー密度の課題をカバーできれば、新しいブレークスルーになる可能性が高い。
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