「知らなかった」では済まされない 新・ステマ規制のリスク:注意(2/2 ページ)
消費者庁は10月1日、景品表示法違反の「不当表示」の新たな形態として「ステルスマーケティング(ステマ)」を追加する新たな規制を施行した。発注企業、広告代理店、インフルエンサー、消費者はそれぞれ、どこに気を付けたら良いか。
インフルエンサー・一般人の責任
インフルエンサーも、提供された情報や商品についての宣伝活動を行う際には、その内容がステマに該当しないよう注意する義務がある。
しかし、景品表示法はあくまで「事業者」を対象としたもので、インフルエンサーが配信や商品レビューの名目で代理店や広告主から依頼された案件が結果的にステマとなっていたとしても、景品表示法違反としての罰則を受けることはないだろう。
ただし、インフルエンサー自身でプロデュースする化粧品やグッズ、食品など、自身が事業者という顔も持ち合わせているのであれば、もちろんその商品に対するステマは景品表示法の規制対象に入るため、景品表示法上の法的責任を問われる可能性がある。
また、いわゆる「村八分」の理論は、事業主からの発注がなくなるというだけでなく、ファンや一般大衆からの非難や活動に対する荒らしのように、広告代理店などよりも広範な「村八分」を食らうリスクがある。
本人の顔も割れている分、実生活にも支障がでる危険性が高く、軽い気持ちで請け負ったステマ案件が活動を超えて人生そのものに支障を来たす可能性もある。
一般人の場合も、自身が事業者でないものについてステマの責任を取らされることはない。しかし目先の報酬に釣られて書いてしまうステマレビューなどは、巡り巡って日本社会の広告の品質を落とし、最終的には自分が良くない商品を買わされてしまうという形で帰ってくる。
自身が被害者にならないためだけでなく加害者にならないためという意味でも、やはりステマ規制に対する知識をつけておくことに越したことはないだろう。
ちなみに、ステマ規制が進んでいる米国では、広告代理店や、インフルエンサー・一般人(米国規制下では「推奨者」と呼ばれる)のようなプレーヤーについてもステマ規制の対象となり、法的責任を負う場合がある。
消費者庁の第5回ステルスマーケティングに関する検討会では、米国のステマ規制について「推奨者は、推奨の時点で、商品を実際に使用したことがある者」でなければならず、「推奨の一環として行われた表示について責任を負う場合がある」と言及しており、日本のステマ規制よりも広範な規制であることが分かる。
日本のステマ規制は諸外国の法規制も念頭において整備されたものであることから、今後もステマをとりまく環境に改善がなければ、新たに代理店やインフルエンサーなどにも責任が問われるような規制範囲の広い法令が生まれる可能性もある。
リスクをどう避けるか
宣伝活動がステマに該当しないよう明確なガイドラインを設け、文書化することが大切だ。広告がどのように表示されるかの認識についても事前に明示し、当事者間で合意することが最も安全である。
発注企業側は、発注した広告・宣伝活動の内容が、規制に違反しないか定期的にチェックすることも必要だろう。特にインフルエンサーマーケティングなど、個人や代理店に投稿する内容を丸投げしているような場合でも、今後は事前承認制度の導入や投稿後のモニタリングをより綿密に行うことが求められる。
また、発注企業や広告代理店は宣伝活動に関わる全ての関係者に対して、ステマ規制の内容を理解させるための研修や教育を定期的に実施することを推奨する。個人のインフルエンサーなども自衛として知識を身につけておく方が安全だ。
ステマ規制が含まれる景品表示法は、故意または過失を問わない。つまり、コミュニケーションや知識の不足といったミスで一般消費者が誤認してもステマはステマであり、相応の責任を負わなければならないのだ。
ステマ規制の内容や社会の認識は、時間とともに変わっていく可能性がある。そのため、定期的に内部のガイドラインやルールを見直し、最新の状況に合わせて更新することが重要だ。万が一ステマに該当するような宣伝活動が発覚した場合のために、迅速かつ適切に対応する体制を構築することも必要となる。これにより、企業の信頼回復を図るための体制整備も求められるだろう。
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