格安ブランドがこぞって「銀座」を目指すワケ ダイソー、GU、オーケーが進出決めた“真の狙い”:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
銀座にかつてない異変が起きている。ダイソー、GU、オーケーなどの庶民派ブランドが相次いで銀座に出店するようになったのだ。「高級街」に足を踏み入れた裏側には、どのような狙いがあるのだろうか。
銀座にかつてない異変が起きている。「庶民派」ブランドが相次いで出店するようになったのだ。
驚くべきことに、格安スーパーとして広く知られるOKストアが、この高級街に出店を果たした。近年では、100円ショップ最大手のダイソーやファストファッションの人気ブランドGUも銀座に出店し、大衆ブランドの銀座進出という動きが強まっていた。
銀座と聞けば、高級ブランドのショッピング街というイメージが強烈に思い浮かぶ。このエリアは、国内外からの旅行者が訪れる日本を代表する商業地であり、多くのラグジュアリーブランドが軒を連ねる場所として長年にわたって知られている。
そんな高級街・銀座に大衆向けブランドに足を踏み入れた裏側にはどのような狙いがあるのだろうか。
庶民派ブランドは、なぜ「銀座」を目指すのか
銀座は日本を代表する繁華街の一つであり、長い歴史の中で多くのハイブランドがしのぎを削る激戦区というイメージを形成してきた。一見すると、そんなエリアに大衆向けブランドの出る幕はなさそうだ。しかし、銀座が大衆向けブランドの旗艦店に選ばれる理由には、歴史的経緯と戦略的な意味合いが深く関わっている点を見逃してはならない。
例えば、1971年に日本初のマクドナルドが銀座に初出店した際、単に米国のファストフードチェーンが日本に進出したという以上の意味を日本人に植え付けた。マクドナルドは、米国式の新しいライフスタイルが日本に持ち込まれたことの象徴と化した。銀座に店舗を構えることで、その信頼性とモダンなイメージを消費者に強く印象付けることに成功したのだ。これにより、国内でのブランド受容を大きく後押しし、全国展開を成功させる重要な足掛かりとなった。
また、GUと同じ「ファーストリテイリング」が運営するユニクロも、09年に世界最大規模の旗艦店を銀座にオープンさせ、大きな話題を呼んだ。これは国内外からの観光客が多い銀座の立地を最大限に利用し、世界中の消費者に対してブランドのメッセージを発信する重要な戦略であった。高級感が漂う銀座で、価格と品質のバランスの取れた商品を提供することで、ユニクロは「カジュアルだが品質が良い」というブランドイメージをさらに強化することに成功した。
銀座に店舗を構えることは、ブランドの国内外での知名度向上、信頼性の構築、そして日本特有の消費者市場への適応という点で、家賃以上の価値がある。近年の銀座は、銀座だけに出店するようなハイブランドの大量撤退・閉店がコロナ禍で話題となった。テナントが銀座だけの場合は、割高な家賃を自店舗の利益から捻出する必要があるため、家賃を吸収しきれなかったのだろう。
しかし、全国にチェーン店が存在する大衆向けブランドは、全テナントに占める銀座店の家賃の比率はたがが知れており、相対的に高い家賃も吸収しやすい。また、それにより全国的な知名度が底上げされれば、銀座店単体では高い家賃で赤字になったとしても、トータルで見た収支は大きな黒字になる可能性が高い。
ちなみに、銀座が現在の姿になるまでの歴史は、江戸時代に遡る。もともとは銀座という名の通り、銀の鋳造所が置かれていた場所であったが、明治時代以降は西洋式の近代的な建物が建ち並ぶ場所へと変貌した。そのプロセスで、銀座は「モダン」と「トレンディ」の象徴となり、多くの消費者、特に都市部の富裕層や流行に敏感な層を引き寄せたのである。
銀座が大衆向けブランドの旗艦店の地として選ばれる一因は、この地区独特のブランド力にあるといえるだろう。単に地価が高いエリアに出店すれば人気が出るというわけでなく、銀座という歴史的な由緒のある立地に店を構えることが、ブランドに対する「高品質」と「信頼性」を担保する。つまり、どんなに価格が手頃でも、銀座の店舗であれば、その商品やサービスに一定の信頼性やステータスが与えられるのだ。
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