旭化成「多角化経営」のカギ 独自の人材戦略を読み解く:【前編】徹底リサーチ! 旭化成の人的資本経営(2/3 ページ)
経営を多角化させてきた歴史を持つ旭化成。新規事業の創出や既存事業の強化に貢献できる人材を育成していく目的で、ある制度を設けている。制度の内容や運用方法とは?
高度専門職制度の歴史
奈良: 今まで高度専門職制度の概要についてお話をうかがってきましたが、この制度はいつ、どのような経緯でスタートされたのでしょうか。
白井: 今から約20年前の2003年にスタートしました。
もともとは飛び抜けた業績を上げた従業員をフェローとして任命する制度でした。今と比べるとプリンシパルエキスパートやエグゼクティブフェローレベルに該当するような非常に飛び抜けた実績を上げられた方々を処遇するための制度という形でスタートしています。
その後08年に、旭化成グループの処遇制度を職能資格から役割等級制度に変えることになりました。「専門力をどう評価すべきか」という観点で制度を見直し、この時点で現在の高度専門職制度の原形ができました。
奈良: 当初は成果を上げた従業員を評価するための制度だったのですね。現在に至るまでに制度を変更されたのでしょうか。
白井: 08年時点では、専門性が高い人材とラインポストは別で考えることにしていました。このため、ラインポストについていない人の中から、専門性を発揮する人を高度専門職として任命する形式でした。
しかし、徐々に何を目指したら高度専門職になれるのかが不明瞭になり、高度専門職はポストにつかない人の処遇と見られたり、新規事業を見いだすなどの目的が高度専門職の従業員に伝わりづらくなってしまったりなどの問題点が見えてきました。
そこで17年に従業員が自らのミッションを意識しながら職務に臨めるよう、制度を改定しました。まず、新規事業創出といった高度専門職制度の目的や高度専門職に期待する役割をいま一度明確に示し、これに加えて、ラインポストについている人でも高度専門職になれるよう兼任も認めました。また、従業員を高度専門職に推薦する際には上司が任命するだけではなく、従業員本人にも、現在の課題意識やそれを踏まえた上での3年間の活動計画のプレゼンテーションを課すようにしています。
制度を変更してから約5年。徐々に任命者数も増えて、会社全体に高度専門職の意義や目的は浸透してきたと感じています。
奈良: 17年までは、高度専門職がラインポストにつかない、いわゆる非管理職の方たちのための処遇であるという、今も多くの企業が悩んでいるような問題を抱えられていたのですね。変更の際、どのように制度を変えたら課題が解消するか、苦心された部分もあったかと思うのですが、いかがでしょうか。
白井: 制度改定の時には、今でいうコア技術領域の従業員と議論するなど、現場と共に制度を改定しました。そのため、例えばラインポストと高度専門職との兼任についても、現場の問題意識をベースに話を進めることができました。協力をいただけたので、そこまで苦労したとは思いませんでした。
高度専門職制度導入によって生まれた変化
奈良: 高度専門職制度があることで、社内では実際にどのような変化がありましたか?
白井: まず、高度な専門力を持つ人材の採用への貢献が大きいと感じています。各領域で高度専門人材を開拓する上で、社外の知見も積極的に取り入れることが必要不可欠です。
また、従業員の働き方への影響も感じています。マネジメント職になるだけではなく、自分たちの仕事を通じて専門性を磨き成果を出すことでエキスパートやリードエキスパートになるということが実際に起きます。
そういった意味で、高度専門職制度がない状態よりも、仕事の中で専門力を発揮することで成果を出すという働き方が当社グループのさまざまな場所で実現できるようになっていると感じています。
奈良: 高度専門職従業員の役割を、新規事業創出・事業強化、後進の育成と定義されていますよね。しかし、特に前者の「新規事業創出・事業強化」は成果をすぐに出すことが難しいのではないかと思います。これに伴って、成果の評価にも支障が出そうです。
また先ほどのお話では、降格される方もいるということでした。評価制度が適切に機能しているからこそかと思うのですが、どのような運用をされていらっしゃいますか。
白井: 実はそれぞれの高度専門職の方、または応募する方は、先ほど申し上げた人財育成会議における選考時に、3年間の任期での活動内容と予定されている成果についての計画のプレゼンテーションを行います。この計画の進捗も参考にして評価を行うようにしています。
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