全て「管理職のせい」なのか? 昭和おじさん社会が抱える、ある問題点:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
「マネジメントスキルが低下している」「従来のマネジメントでは成果が上がらない」――日本の企業が思うように伸びない一因として、管理職の問題が言及されることが多い。企業も管理職の育成に課題を感じているようだ。しかしその一方で、全て「管理職のせい」と考えると見落としてしまう重大な問題点がある。それは何かと言うと……。
「現場一流、経営三流」の実態
三菱総合研究所が、IMD「世界競争力年鑑2022」のデータを元に、日本企業の経営層の問題を詳細に分析した結果の一部をみれば、いかに日本が「現場一流、経営三流」かが分かります(資料)。
これはスイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)が、「国家の競争力に関する年次報告」として、1989年から毎年発表するリポートで、調査対象は63の国や地域。20項目、333の基準で競争力をスコア化したものです。
ビジネス効率性:51位
- 「労働市場関連」では、管理職の国際経験(63位)や有能な管理職の厚み(61位)という結果に。
- 「経営プラクティス(経営管理の慣行)関連」では、企業の意思決定の迅速性、変化する市場への認識、機会と脅威への素早い対応、ビッグデータ分析の意思決定への活用、起業家精神の全てが最下位の63位。その他の指標でも、取締役会の機能(52位)、経営に携わる女性比率(56位)、取締役会における女性比率(47位)と、低い順位が続く。
- 「取り組み・価値観関連」も、変化に対する柔軟性と適応性(63位)、企業におけるデジタルトランスフォーメーション(63位)、海外のアイデアを広く受け入れる文化の開放性(61位)やグローバル化へ向けた態度(48位)、競争力を支える社会の価値観(57位)と惨憺(さんたん)たる結果に。
インフラ:22位
- 「科学インフラ分野」は8位だった。その内訳は、研究開発人材数が総数で2位、企業内で3位。論文数は6位、特許は総数で3位、人口当たりで4位と、いずれも高い順位が続いた。
- 「教育分野」は、学習到達度(PISA)5位に対し、経済の要請に見合った大学教育(59位)やビジネスニーズに見合った経営者教育(60位)、企業のニーズを満たす語学能力(62位)と経営層の評価が低かった。
……さて、いかがでしょうか。
現場の力の総力ともいえる「特許」はトップレベルなのに、「経営プラクティス」は最下位です。意思決定も遅く、起業家精神もビリ。どこからどうみても、経営層=スーパー昭和おじさんの教育が足りていないのは明らかです。
組織を変える、経営者教育と多様性
世間では管理職や、役職定年になった昭和おじさんを「モチベーションが低い」「会社に依存しすぎ」と批判しますが、はるかに問題なのは階層最上階に上り詰めたスーパー昭和おじさんなのです。その自覚をもたらすには「組織を変えたきゃ、若者、よそ者、バカ者を入れよ!」と言われるように、意思決定の場の多様性を確保するしかありません。
しかし、悲しいかな、絶対的自信を持つスーパー昭和おじさんは、女性を「おじさん中心の社会」の下層部に取り込み、外国人労働者をそのさらに最下層部に取り込み。いまや超マイノリティーとなった若い世代に、「おじさん中心の社会」の後始末をさせている。
冒頭の2つの調査結果は、ある意味において「日本企業の絶望」なのです。
最後に、件のHR総研の調査に記されていた、従業員のコメントを紹介して終わります(自由回答より抜粋)。
- 現業務に携わりながらの選抜研修受講のため、所属部門の協力がないとなかなか大変。本人のモチベーションやスキルを上げる以前に、全社的な意識改革が必要だと思う
- 経営層のビジョン形成が重要だと思う
- 経営層の認識が低い
- 中長期計画が明確に浸透しないと、各現場もどのような教育、リーダーを必要とするのかベクトルが合わなくなってしまう
- 従来から、課長職・部長職の在籍中に自然と選抜がなされているため、次期経営層の選抜・育成が必要という意識が強くない企業風土
……これ以上、管理職を苦しめてどうするおつもりなのか。是非とも、経営層の方のご意見を聞きたいです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
関連記事
- 「なめられたくない」「マウントを取りたい」──なぜ、中高年の転職はこうも不器用なのか?
「かっぱ寿司」元社長が「はま寿司」から営業秘密を不正に持ち出した件で、「転職先で部下になめられたくなかった」「マウントを取りたかった」という動機が報道された。中高年での転職を検討する人にとって、この動機は他人事ではない。なぜ、中高年の転職はこうも不器用なのか──? - 「悪気はなかった」は通用しない ハラスメントする人が無意識に押し付ける“思い込み”とは?
管理職として異動してきたAさん。早くメンバーと親しくなろうと一生懸命コミュニケーションを取りました。ところが、ある日突然、Aさんは人事部から「ハラスメント行為を行った」と呼び出されたのです。 - 管理職は「感情労働」 反発する部下やプレッシャーをかける上司と、どう戦う?
業務量の増加や世代間ギャップなど、管理職の悩みは尽きない。生き残りに必死でプレッシャーをかけてくる上司や経営層と、労働環境に不満をため込む部下に挟まれ、現場で孤軍奮闘する。そんな現実の中、管理職はどのように自分の仕事をとらえ、働くべきなのか──? - 自爆営業の推奨、未達成で給与減額──「過度なノルマ」は違法にならないの?
私が働く業界は、伝統的に営業ノルマが厳しい業界です。パワハラまがいの叱責、自爆営業の推奨、ペナルティとしての給与減額、ノルマ未達成を理由とした退職の推奨など──「過度なノルマ」は違法にならないのでしょうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.