「韓国流マンガ」は市場を支配するのか? webtoonと漫画の戦略を比較する:エンタメ×ビジネスを科学する(4/4 ページ)
近年、韓国発祥のwebtoonという新しい形態のマンガ/コミックが急成長している。今後、漫画とwebtoonはどちらが優位に立つのだろうか?両者の現状を再確認した上で将来を展望する。
漫画とwebtoonの中長期展望
最後に、漫画とwebtoonの中長期の未来を展望する。
ここまで述べたように、漫画とwebtoonは同じコミックというメディアだが、現時点ではその形態や特徴は大きく異なる。ただ、今後は漫画の主戦場もスマートフォンの画面に移っていくことを考えれば「画面上で画像と短文を駆使してストーリーを表現する」コンテンツという点では同一となる。
またその主戦場において、漫画・webtoonがそれぞれが抱える課題を解決し最適化を図った場合、消費者目線では差異がなくなり結果として漫画とwebtoonが同化していく未来が予想できる。
漫画の課題はスマートフォン対応と国外におけるライト層対応である。チャネル・商品設計に関しては、各出版社が電子版において1話区切りの販売を行うなど時流にあわせた対応を進めているが、作品そのものはスマートフォンで読むことを前提とした作りにはなっていない。
雑誌掲載が根底にある以上困難な部分はあるが、雑誌・スマートフォン両方に対応した、もしくは雑誌からスマートフォン向けへ転用しやすいコマ割り含む各種表現技法を開発する必要があるだろう。
また、ストーリーを理解するために高度な言語力や読解力、またストーリー理解の前提となる各種知識などを求める表現も特に国外での新規顧客獲得に際しては注意が必要である。
多国多民族多文化を対象にする以上、いわゆる「お作法」「お約束」といわれる前提知識が必要な表現技法やレトリックが駆使された文章表現は文化を共有していない人々にとっては理解の妨げとなる。
言うまでもないが、キャラクターの向きで話者を特定させる表現、ページめくりや風景のみのコマを活用した時間経過表現、枠を用いたメタ表現など、漫画の高度かつ豊かな表現技法は枚挙にいとまがなく、これらの技法は次代へ受け継ぐべき資産である。目的は漫画に新規層を呼び込むこと、そのためにはスマートフォン経由でよりライトに楽しめる表現にした漫画「も」取りそろえることが重要となる。
webtoonの課題は表現技法の高度化とジャンルの多角化である。縦スクロール前提のwebtoonにおける表現技法は発展途上であり、役割として挿絵イラストの域を出ていないものも少なくない。またストーリーも、主に原作となる韓国や中国のweb小説の人気作ジャンルが偏っているため、webtoonも一部のジャンルに作品が偏っている。
これらの表現技法やジャンルの偏りはあらゆるコンテンツが通る道であり、漫画も草創期に通った道である。近いうちに表現技法の高度化がなされ、多様なジャンル・ストーリー展開の作品が世に現れるだろう。おそらくそれを推進するのはwebtoonの本場韓国ではなく、日本の出版社で漫画の最前線を歩んできた編集者となる。
豊富な経験を持つ編集者がwebtoonへ転身する例は少なくない。マンガ/コミックの領域において、日本の編集者は世界トップクラスのマーケターでありプロデューサーでありコンサルタントである。
上述したように、各課題を双方が解決を試みた場合、消費者目線での差は非常に小さくなると考えられ、それはマンガ/コミックが新たなコンテンツへ昇華することを意味する。見方を変えれば、漫画・webtoonのうち変化を拒んだ方はもう片方に飲み込まれ顧客ばかりか存在自体を失う可能性もある。
まとめ
本稿では漫画とwebtoonを比較した上で、それらの競合状況や将来像について展望を行った。漫画とwebtoonは画像と短文によりストーリーを表現するコンテンツという点で共通しており、本質的な競合はスマートフォンに映る全てのメディア・コンテンツである。
漫画とwebtoonが今後プレゼンスを拡大するためには、互いに争い競うのではなく双方の強みを取り込みあい、次世代のマンガ/コミックに昇華することが必要である。いずれは動画の要素も完全に取り込み、全てのコマが短時間アニメになっているような次世代の「マンガ/コミック」が現れる可能性もある。
漫画は職人による垂直統合、webtoonは水平分業と製造業に例えられるが、今後必要となるのは製造業と同様に温故知新の発想、これまでの発展を支えたコアコンピタンスを大事にしつつ、マーケットニーズにあわせ新技術を活用する新たな挑戦とそれを推進する人材である。
関連記事
- MAPPA単独『呪術廻戦』大成功の一方で……「製作委員会方式」は本当に悪なのか?
『呪術廻戦』が人気だ。同アニメの制作会社のMAPPA(東京都杉並区)が実行した「単独出資方式」に脚光が当たっている。これまで主流だった「製作委員会方式」とはどう違うのか? それぞれのメリット・デメリットは。 - 「実写版ワンピース」 ネトフリが平気で「映画10本分」以上の予算を投入するワケ
Netflixが配信する「実写版ワンピース」が話題だ。1話あたりの製作費は日本円で約26億円と破格。なぜNetflixはオリジナルコンテンツにここまでの巨額投資を行うのか。同社の黄金サイクルについて解説する。 - 「モンハン×位置ゲーム」 “ひと狩り75秒”に込めた意図
米Nianticは9月14日、「Monster Hunter Now」を正式リリースした。同作はどのような経緯で開発されたのか。チーフプロダクトオフィサーの河合敬一氏と、シニアディレクターの野村達雄氏に聞いた。 - 消えた学食を救え ファミマが無人コンビニで「初」の取り組み 新たな鉱脈探る
ファミリーマートは4月10日、大森学園高等学校内に無人決済システムを導入した店舗をオープンした。高等学校への導入は初となる。飽和化したコンビニ市場の次の鉱脈は? - スラムダンクの“聖地”は今――インバウンド殺到も、鎌倉市が素直に喜べないワケ
江ノ島電鉄(通称:江ノ電)のとある踏切は、アニメ版『SLAM DUNK』に登場する有名な「聖地巡礼」スポットだ。現在上映中の『THE FIRST SLAM DUNK』の人気で、世の中ではにわかに「SLAM DUNK熱」が再燃している。インバウンド需要も戻ってきている中、あの聖地は今どうなっているのか。現地へ向かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.