「韓国流マンガ」は市場を支配するのか? webtoonと漫画の戦略を比較する:エンタメ×ビジネスを科学する(3/4 ページ)
近年、韓国発祥のwebtoonという新しい形態のマンガ/コミックが急成長している。今後、漫画とwebtoonはどちらが優位に立つのだろうか?両者の現状を再確認した上で将来を展望する。
大ヒットを生み出すのはやはり漫画
漫画・webtoonの差異を簡単に整理したところで、次は競合状況について述べる。ここまでは過去の事実をもとに情報を整理してきたが、ここからはそれらの事実や市場を見た上での考察となる。
漫画とwebtoonの競合状況を見る上では、日本国内と海外を分けて考える必要がある。
日本国内では漫画が文化として定着しているため、ライト層からコア層まで多くの人が紙の雑誌や単行本で漫画に触れ、好きな雑誌や作者・作品に出会い、その後電子版も含めた漫画の継続的な消費者となる。
一方、webtoonは日本ではまだ新しいコンテンツであり、普段漫画を読まない層が、漫画や動画などの既存コンテンツと比較してよりライトに楽しめることに魅かれて読んでいる傾向にある。
つまり、日本国内では漫画の入り口の方が広く、漫画とwebtoonは異なる市場・消費者層を顧客にしており、競合することは現状少ないといえる。
これはマネタイズの段階においても影響を及ぼす。上記の理由から、アニメや映画などマルチメディア化する価値があるほどヒットするのは主に漫画であり、webtoonから同等のヒット作が出ることはまれだ。漫画に人とお金が集まる構図が作られているのが日本市場である。
海外では状況が異なる。海外において、漫画は日本のポップカルチャーの一部として認知されており、一部のコア層が読んでいる状況だ。そして漫画に関する入り口は主にスマートフォンの画面である。
webtoonへの入り口もまた、スマホの画面である。webtoonはライトに楽しめるジャンル・表現で展開しており、スマホで読むことを前提としていることから、読み始めるまでの障壁が低い。
つまり、海外では漫画とwebtoonは入り口が競合しており、ライトに楽しめるwebtoonに人が流れやすく、コンテンツ需要の面でも競合している。そのため、今後よりwebtoon読者が増加し市場の拡大が続くと、ゆくゆくは漫画への流入が途絶えることも考えられる。
webtoonの日本国内・海外での受け入れられ方の違いには、原作となるweb小説のジャンルやストーリー展開も影響する。
日本国内において人気となるジャンル・ストーリー展開は、ジャンプやマガジン、サンデーなど大手出版社の主力雑誌掲載の人気作に依存する。また、日本におけるweb小説の人気作品もwebtoonに先駆けて大手出版社のアプリなどで漫画化されるため、日本国内で人気を獲得しうる原作がwebtoon化されるケースが現状少なく、結果としてwebtoonからヒット作が生まれにくい。
対して、海外、特にアジア圏で人気となるジャンル・ストーリー展開は韓国由来のものが多い。これは2000年代以降韓国政府が国策で自国コンテンツの海外展開を推進したことに由来する。
webtoonに先んじてアジアで存在感を発揮した実写ドラマなどのコンテンツにより、「韓流コンテンツがトレンドの先端であり主流」という認識が拡大・定着した。そのため韓流ドラマとジャンル・ストーリー展開が近しい作品がヒットし、またヒットしたwebtoon作品がドラマ化などのマルチメディア化が行われ、さらに人気を博す構図となる。
その代表例が日本でも話題となった『梨泰院クラス』である。
以上から、漫画とwebtoonの競合状況に関してまとめると下記となる。
- 日本国内では文化に根ざしている漫画が強い状況が続く
- ただし、大手出版社がそのブランドで国内で人気となりうるジャンル・ストーリー展開のwebtoonを制作した場合はその限りではない
- 国外、特にアジアでは漫画とwebtoonは競合し、ライト層との親和性の点から市場を奪われる可能性がある
- 特に韓国コンテンツは音楽・ドラマで主導権を握った実績とノウハウを保有しており、脅威である
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