この記事は、パーソル総合研究所が9月14日に掲載した「コロナ禍で「ワーク・エンゲイジメント」はどう変化したのか?ー企業規模に注目して」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
【更新:2024年2月2日午前10時30分、本記事は転載元からの申し出により内容を一部修正しました。】
本コラムは、民間企業正社員(以下、就業者)の「ワーク・エンゲイジメント」がこの数年間でどのように変化したのかに注目し、ワーク・エンゲイジメント向上の鍵を探ることを目的とする。
ワーク・エンゲイジメントをひと言でいえば「働きがい」といえるだろう。ワーク・エンゲイジメントは、仕事への熱意、仕事への没頭、仕事から得る活力を示す概念として注目を集めており、ワーク・エンゲイジメントの高さは就業者だけでなく企業にとっても良い影響があるとされている(※1)。
※1:厚生労働省『労働経済の分析(平成30年版)−働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について』、リクルートマネジメントソリューションズ『RMS Message』57(2020.02)(2023年8月11日アクセス)
日本政府は、2019年の「働き方改革関連法」を皮切りに所定外労働時間の上限規制や年次有給休暇5日取得の義務化など「働き方改革」を推し進めることで、「働きやすさ」を改善しようとしている(※2)。もっとも、常用労働者の平均年間総実労働時間数は1960年代から減少傾向であり、年次有給休暇取得率も2019年以前から上昇傾向であったが(※3)、近年の政府の「働き方改革」が「働きやすさ」改善を後押ししたのは確かであろう。しかし、「働きがい」はどう変化したのだろうか。就業者が「働きがい」を感じられていないとすれば、その組織が成長することも難しいはずだ。
※2:厚生労働省「『働き方改革』の実現に向けて」(2023年8月11日アクセス)
※3:労働政策研究・研修機構「早わかり グラフでみる長期労働統計」(2023年8月11日アクセス)
本コラムでは、パーソル総合研究所が17年から毎年実施してきた「働く10,000人の就業・成長定点調査」の過去5年間(19年・20年・21年・22年・23年)の結果を用いて、企業規模に着目しながら次のことを見ていく。
(1)ワーク・エンゲイジメントの高低の影響
(2)ワーク・エンゲイジメントの推移
(3)会社満足度の推移(ワーク・エンゲイジメントとの比較として)
(4)ワーク・エンゲイジメント向上の要因
ワーク・エンゲイジメントは仕事にどう影響するか
ワーク・エンゲイジメントは生産性を高めることが知られているが、成長や仕事に抱く感情との関係とあわせて本調査データから確認しておきたい(図表1、図表2、図表3)(※4)。ワーク・エンゲイジメント高群のほうが低群よりもジョブ・パフォーマンスが高く、ポジティブな感情(「私は、はたらくことを通じて、幸せを感じている」)になっており、仕事を通じた成長を重要だと考えているだけではなく、成長実感もある。
※4:・「ワーク・エンゲイジメント」は、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度を参考に「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「仕事に熱心である」「仕事をしていると、つい夢中になってしまう」(「5.あてはまる」から「1.あてはまらない」)を合成(α係数は0.866)した変数の回答平均値である。参考:Shimazu, A., Schaufeli, W. B., Kosugi, S. et al. (2008). Work engagement in Japan: Validation of the Japanese version of Utrecht Work Engagement Scale. Applied Psychology: An International Review, 57, 510-523.
・「ジョブ・パフォーマンス」は、「任された役割を果たしている」「担当業務の責任を果たしている」「仕事でパフォーマンスを発揮している」「会社から求められる仕事の成果を出している」「仕事の評価に直接影響する活動には関与している」に対する五件法回答のうち「あてはまる」を5点〜「あてはまらない」を1点とし、上記設問を「ジョブ・パフォーマンス」を示す変数として統合し(α係数は0.828)、その平均値を出した。参考:Williams, L. J., & Anderson, S. E. (1991). Job satisfaction and organizational commitment as predictors of organizational citizenship and in-role behaviors. Journal of Management, 17(3), 601‐617.
・「成長志向」は、働くことを通じた成長に対する重要度を尋ねた質問に対する「とても重要だ」を7点〜「まったく重要ではない」を1点とした値である。「成長実感」は、過去1年間の仕事を通じた成長実感を尋ねた質問に対する「とても実感した」を7点〜「まったく実感しなかった」を1点とした値である。
図表4は、企業規模別にワーク・エンゲイジメントの推移を見たものである。大企業、中小規模ともに2020年から2021年にかけて若干上昇しているが、2019年から2023年で見ると低下傾向にある。しかも、2019年の時点で大企業と中小企業は同じ値であったが、2023年にかけて中小企業の低下が大きく、大企業との差が生じている。
関連記事
- 「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観
「ホワイト離職」現象が、メディアで取り沙汰されている。いやいや、「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観を考える。 - 時短勤務や週休3日が「働く母」を苦しめるワケ 働き方改革の隠れた代償
男性育休の促進、時短勤務やテレワーク、フレックスタイム制といった従来の制度をより使いやすくする動きが進んでいる。子育てをしながら働き続けるためのオプションが増えるのは良いことだ。しかし一方で、「これだけの制度があるんだもの、仕事も子育ても頑張れるでしょ?」という圧力に、ますますしんどくなる女性が増えてしまう可能性も。 - 「管理職になりたくない」 優秀な社員が昇進を拒むワケ
昨今は「出世しなくてもよい」と考えるビジネスパーソンが増えている。若年層に管理職を打診しても断られるケースが見受けられ、企業によっては後任者を据えるのに苦労することも。なぜ、優秀な社員は昇進を拒むのか……。 - 「管理職辞退」は悪いこと? 断る際に重要な2つのポイント
昨今「管理職になりたくない」「管理職にならない方がお得だ」――という意見が多く挙がっている。管理職にならず、現状のポジションを維持したいと考えているビジネスパーソンが増えているが、管理職登用を「辞退」するのは悪いことなのだろうか……? - 人的資本開示を「無駄」にしない ディスコ・マネフォの資料から「実情」を読み解く
人的資本の情報開示は、ただルールに沿って行うだけでは意味を成さず、“無駄”になってしまう。人的資本開示を「無駄」にしないためにすべきこととは? 事例を基に解説。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.