学生は「統合報告書」をどう読んでいるのか?
企業から依頼を受けて、実際に担当者の前でプレゼンテーションをするまでの流れとしてはこうだ。円谷氏が依頼を受けた企業に対し、どういった観点で学生に読み解いてほしいかという要望をヒアリングする。要望は「刷新したマテリアリティが伝わるか」「競合他社や統合報告書の質が高い企業との比較」などさまざまだ。
学生は統合報告書を読み込み、要望に沿った分析と提言を盛り込んだ資料を作成する。研究室内での中間報告とフィードバックを踏まえて修正し、プレゼンテーションに挑む。
ある製薬会社への提案資料には「事業の強みとして触れられている『患者さんの視点』は本当に独自の強みなのか?」「『日本事業で培った知見・経験を生かしてグローバルでの競争力を高める』とあるが、具体的な記述が少なくつながりが見えない」といった手厳しい指摘も見られた。
変化する統合報告書
統合報告書は、筆者が就職活動をしていた6年ほど前にも存在はしていた。しかし、就活時に統合報告書を読み込んでいた学生は多くなかったと記憶している。ビジョンやパーパスよりも、企業のブランド力や給与、働きがいなどを総合的に判断するのが一般的だったように思う。
円谷氏は「統合報告書は日進月歩している」と話す。6年前とはかなり異なっており、文字情報だけでどのように自社の価値観を伝えるか、各社が工夫を凝らしている。
統合報告書の進化の裏には、先述した「就活における学生の価値観の変化」がある。円谷研究室で「就職する企業に求めること」というテーマでディスカッションをした際に「給与の高さよりも、能力が正当に評価されているかを重視する」という意見が複数の学生から挙げられた。
彼らは「新卒だから年収○○万円」という一律のルールに違和感を持っている。努力や能力に見合った給与であるべき、それらが足りていないならば低くてもしょうがない。しかし、見合っているのであればそれなりの給与が支払われるべきと考えているのだ。
「努力やがんばりが評価される価値観を会社が持っているかどうかは、統合報告書から読み取れます」と円谷氏は話す。個人の努力を評価し、給与に反映する土壌がある会社なのか、それとも能力の差にかかわらず一律の給与体系を置き続けるのか――学生は重要な判断をする際に、意外と統合報告書を頼りにしているようだ。
「いまや統合報告書は投資家だけでなく、マルチステークホルダー向けの情報開示ツールと言っても過言ではありません。その中で将来世代である学生にどのような情報を届けるべきか、ポエムのような内容になってしまっているものもありますが、しっかり書かれている企業はいますし、今後さらに増えていくと思います」(円谷氏)
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