「社長業のストレス発散」1.6億円流用……権力者はなぜ、バカな行動を取るのか?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
カメラ用レンズ大手のタムロンで、現社長と元社長による経費の私的流用が明らかになった。「社長業のストレス発散」などの理由で1.6億円という桁外れな金額を使い込んだこの事例から、なぜ権力者はときに「バカな行動」としか言いようがないことをしでかすのか、考察する。
堕落、幼稚化、腐敗を招く、ある現象
記憶に新しいのが、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長です。
ゴーン氏はコーポレート(社有)ジェット費用のほか、東京や海外住居の家賃、さらには、ヴェルサイユ宮殿で結婚披露宴や自身の誕生会を開催。8年間で総額約11億5000万円もの「会社の金」を私的流用していました。
拘置所から保釈されたとき作業着姿でバレないようにするなど(バレバレでしたが)、一般ピーポーには「開いた口がふさがらない」愚行を平気でするのが、階層最上階まで上りつめた、絶対的権力者です。
国や文化を超えて古くから、いったいなぜ、権力者はバカな行動を平気でするのか? いったいなぜ、権力者は私利私欲に走るようになるのか? という問いは研究者のテーマでした。
その結果分かったのが「人はしばしば自分でも気が付かないうちに権力の影響を受け、その影響力は極めて強力かつ広範囲におよぶ」という、呪いのような事実です。
つまり、愚行をやらかす権力者は、最初から悪人だったわけでも、身勝手な輩だったわけでもない。ただ、うっかりと、うかつにも権力で生じる「絶対感」に酔いしれたことで、堕落し、幼稚化し、組織を腐敗させてしまうのです。
権力による「絶対感」は精神的かつ主観的感覚なので、高低のいかんは個人的要因に強く左右されます。「公益への貢献より私益を追求」する権力志向が強い人は絶対感を抱きやすく、「私益より公益の追求」を重んじる人は絶対感を抱きづらい。
しかしながら、両者は相反する志向性ではなく、むしろ共存する欲求であるため、どちらが優勢になるかはその個人の資質以上に組織風土や組織構造などの環境要因が影響します。
とりわけ日本の組織は「ウチ」と「タテ」の人間関係が優先される権力の独占が起こりやすい組織構造です。おまけに経済成長が鈍化し、先行きが不安定な現代社会では、どうしたって権力者への依存度が高まりがちです。
それが権力者の「絶対感」を助長するのです。
ひとたび「絶対感」がもたらす恍惚感を味わってしまうと、権力の呪いから抜け出すのは 至難の業。次第に身勝手さはエスカレートし、無礼で、倫理にもとる行動をとり、リスクの高いおバカな決断をするようになっていきます。
例えば、「約束の時間に遅れそうだからスピード違反でクルマを走らせる」という行為について、「絶対感の高い」グループと「絶対感が高くない」グループに分けて評価をさせたところ、絶対感の高いグループに属する人たちの多くが、「自分がスピード違反する行為」を「仕方がない」と回答。その半面、同じ行為を他者がやったときには、「法律に違反するなど許せない行為だ!」と厳しく非難しました。なんとも身勝手な話ですが、絶対感は「共感性」をはてしなく低下させてしまうのです。
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