「社長業のストレス発散」1.6億円流用……権力者はなぜ、バカな行動を取るのか?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
カメラ用レンズ大手のタムロンで、現社長と元社長による経費の私的流用が明らかになった。「社長業のストレス発散」などの理由で1.6億円という桁外れな金額を使い込んだこの事例から、なぜ権力者はときに「バカな行動」としか言いようがないことをしでかすのか、考察する。
「絶対感」の魔物が生まれるとき 会社トップに必要なもの
やっかいなのは日産やタムロンのように、組織上はさまざまな「見張り」が設置されているにもかかわらず、トップの権限だけで決定できる抜け穴を存在させることが比較的容易にできてしまうことです。
件の報告書によれば、それは「秘書室」です。
秘書室は社長直轄の組織で、秘書室の予算は鯵坂氏が決めていました。
また、コーポレートカードが、代表取締役社長、専務取締役、常務取締役に支給され、タムロンのための経費支払いが認められていました。小野氏にいたっては、社長を退任し相談役になってからも、カードの貸与が継続されていました。しかも、コーポレートカードの所持者の範囲や、使用範囲などの社内ルールは定められていませんでした。
つまるところ、会社のトップには「誠実さ」が必要不可欠であり、単に法令順守をするだけでなく、理想や理念・価値観という高い次元での確固たる経営哲学を経営者が持ち、その価値観を社員と共有しない限り「絶対感」という魔物が生まれるのです。
今回の事件で唯一の救いは、社内の内部通報がきちんと機能していた点です。
7月9日に同社内の「外部窓口」宛に、鯵坂氏が出張に第三者女性を同伴させ、当社の経費を私的に流用した旨の内部通報があり、監査役および社外取締役が即座に動きました。
内部通報後進国と言われる日本で、内部通報がきちんと機能したことだけは救いといえるかもしれません。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
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