テスラを猛追する黒船・BYDが「300万円のEV」投入 販社社長に日本戦略を聞いた(1/2 ページ)
プラグインハイブリッドにEVを加えた販売台数でテスラを抜き、新エネルギー車(NEV)の販売台数で世界1位となった中国のEVメーカー、BYD。BYD Auto Japanの東福寺厚樹社長に、日本市場の販売戦略を聞いた。
2022年、プラグインハイブリッドにEVを加えた販売台数でテスラを抜き、新エネルギー車(NEV)の販売台数で世界1位となった中国のEVメーカー、BYD(比亜迪)。EVのみの販売台数でもテスラを“猛追”している。
BYDは1995年に中国・深圳でバッテリーメーカーとして創業。その後EVメーカーとなり、中国市場では9年連続で販売台数首位を守り続けている。
日本国内では2023年2月、横浜市に販売1号店をオープンした。25年末までに100を超えるショールームを備えた店舗を全国に作る計画だ。現在、開業準備室を含めると50店舗に拡大している。
そのBYDが「コンパクトEVの決定版」とアピールする新型車を、日本市場に投入。販売を拡大しようとしている。EV新車の第2弾として9月から「BYD DOLPHIN」(ビーワイディードルフィン)タイプの販売を始めた。価格は363万円からに設定していて、国の補助金を勘案すれば300万円を割り込む値段となる。
BYD Auto Japanの東福寺厚樹社長は「トヨタ自動車など主要メーカーがEVを出してくる25〜26年ごろまでに、販売の基盤を築いておきたい」と先手を取る構えだ。日本市場に向けての販売戦略を聞いた。
東福寺厚樹(とうふくじ・あつき)1981年に三菱自動車工業に入社、国内、海外事業を担当。2011年からフォルクスワーゲングループジャパンに移り、16年にフォルクスワーゲンジャパン販売の社長、21年にBYDジャパンに執行役員兼乗用車事業本部長として入社、22年7月からBYD Auto Japan社長。65歳。横浜市出身
モーターから半導体まで“自前”の「垂直統合型ビジネス」
――日本市場での販売台数と店舗数の目標を教えてください。
1月から日本で販売を始めた「BYD ATTO 3」(ビーワイディーアットスリー)は、8月末までに700台が売れました。今後も毎月100台ペースで売っていきたいと考えています。
新しく売り出した「BYD DOLPHIN」は24年3月末までに、スタンダードが800台、ロングレンジが300台の合計1100台を目指しているので、トータルでは2500台くらいが目標になっています。
店舗数は現在、ショールームがあり正規のロゴのある店が16カ所、ショールーム完成待ちの店舗が34カ所の合計50カ所あります。25年末までには100を超える店舗数を達成したいと思います。場所は比較的、都市部が先行していて、できるところから開業してもらっています。
――他のEVメーカーにはないBYDの強みは何ですか。
モーターから半導体まで全ての部品を自前で調達できる垂直統合型のビジネスモデルになっているため、マーケットの変化に素早く対応できます。日本の大手メーカーのようなピラミッド型のサプライヤーには依存していません。半導体を含めて全部の部品を身内で生産できます。
このため2、3年前に日本の自動車メーカーで起きた半導体不足によって生産に支障が出るようなことはありません。画像を識別するような高度な半導体は外部に依存しているものの、いわゆる汎用半導体をBYDグループ内で作れるのは強みです。
――日本ではどのような顧客が販売ターゲットになると思いますか。
まだバッテリーを使ったEVが認知されていませんし、次に買うのはEVだと思っている人は少ないのが実情です。将来は検討してもいいかという人を含めても、全体の乗用車の購買層のうち3割に届くかどうかです。
「BYD ATTO 3」を発売した直後の顧客は、バッテリーEVに関心のある限られた層が中心でした。これが今では、店頭に来ている人のアンケートなどを見ると「BYD ATTO 3」の顧客の8割が「EVは初めて」と答えています。
これまで「EVは価格が高く、走行距離が短い」と否定的に思っていた顧客も、店頭で話を聞いて試乗した結果「400万円はそんなに高くない」と気持ちが変わったのではないでしょうか。
価格的にはメルセデスなど輸入EVが700万〜800万円であるのと比べると、ほぼ半額なのです。「この価格なら意外と使えるかも」と思って買う方が少しずつ増えていると思っています。
――「BYD DOLPHIN」は機械式駐車場に入れるように車高を低くするなど日本市場向けに細かい改良を加えています。「コンパクトEVの決定版」という車の手応えはどうでしょうか。
車高を低くしたことで購買層の間口が広がってきています。プラグインハイブリッドを含めて300万から350万円の車の購入を検討している顧客のショッピングリストの中に「BYD DOLPHIN」も入る率が少し上がったと思います。これは狙ってというよりも、バジェットの中で検討してもらえる価格帯の車を出しました。
――子どもを車に置き去りにした時に警報音が鳴る、ブレーキとアクセルを踏み間違えた際の安全装置など、日本向けならではの細かい工夫をしています。これは日本側がBYDの本社の開発に要望したのですか。
こうした細部へのこだわりは、BYD本社の開発部隊が日本での動向をみながら「この機能が必要だろう」と商品開発のメニューに入れてきたものです。安全システムを入れたことで、事故を100%減らす保証はできないものの、相当数を減らせるのではないでしょうか。
――今後、トヨタやホンダなど主力メーカーがEVのラインアップを強化し、競争が激化します。対策はありますか。
基本的には国産各社がバッテリーEVをラインアップに加えてくるのは歓迎しています。22年に「サクラ」など軽自動車のEVが発売され、EV市場が前年と比較して約2.5倍に拡大したように、選択肢が増えると顧客の関心が増えて試してみようという層が出てきます。そうすればEVがより日常の身近な存在として、購入する際の選択肢に入ってきます。
25、26年ごろに国産各社が本格的にEV市場に入ってくると聞いているので、それまでにある程度の陣地を固めて、打って出られるくらいの規模感になっていないと、国産EVと比べてもらえません。その意味で、競争する車が増えて関心が高まったときにBYDとして存在感を持てるようになってくると、お互いに切磋琢磨できます。バッテリーEVとしての顧客ベースを、輸入者も国産車も関係なく構築していきたいですね。
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