テスラを猛追する黒船・BYDが「300万円のEV」投入 販社社長に日本戦略を聞いた(2/2 ページ)
プラグインハイブリッドにEVを加えた販売台数でテスラを抜き、新エネルギー車(NEV)の販売台数で世界1位となった中国のEVメーカー、BYD。BYD Auto Japanの東福寺厚樹社長に、日本市場の販売戦略を聞いた。
売上高が急激に伸びた理由
――BYD全体の売上高が急激に伸びた理由は何だと思いますか。
一番伸びている中国市場を見ると、22年は全体で2700万台といわれる世界最大の市場で、いま新エネルギー車に乗り替える需要がものすごく膨らんできています。そのうち乗用車が2300万台で、新エネルギー車が750万〜800万台と前年の倍まで急激に伸びました。
伸ばしている要因の一つにBYDがあります。21年はガソリン車12万台、EVが30万台、プラグイン・ハイブリッドが30万台でした。22年にはガソリン車は止めてEVとハイブリッドだけになり、それぞれ90万台ずつの合計187万台まで増えました。BYDだけが伸びただけでなくマーケット全体が大幅に拡大しました。
特に中国の国産系メーカーが新エネルギー車に商品を集中投下しました。政府のサポート策もあり、国を挙げて新エネルギー車の市場を大きくしようとした結果、BYDがうまく戦い抜けたのが売上急増の要因だと思います。
BYDは工場の生産規模をわずか1年で倍にしました。72万台の生産能力を187万台にしたのです。115万台も増やすということは、フルキャパシティーの工場を新たに4つも稼働させなければならないわけで、このスピード感と設備投資規模はものすごいと思います。
バッテリーも自社で供給して作れたことも強みになっています。生産能力が増強できた上に、モデル数も多くを出しています。他社からの乗り換えを考えている顧客に提供する低価格のものから、2000万円を超えるような超高級なラインアップまでそろえたのも売れた理由です。
――22年のEV販売台数では、テスラを抜いたのでしょうか。
プラグインハイブリッドにEVを加えた販売台数でBYDが22年、テスラを抜きました。一方、EVだけをみると、テスラの方がまだ多いのではないでしょうか。
――BYDのブランドイメージが数年前と違ってきているようです。それを生み出したのは何でしょうか。
ブランドイメージが変わったのはデザイナーによるものだと思います。2016年にアウディのトップデザイナーだったヴォルフガング・エッガーがデザイン部門のトップに就任して、メルセデス・ベンツのトップクラスの優れたデザイナーなども加わりデザインを変えてきました。
この成果となる商品が18年から出だし、洗練されたデザインのBYD車が登場して中国市場でベストセラー入りしました。
EVはこれまでのガソリン車と比べて重心が低くなります。足回りのチューニングが重要になる局面で、メルセデスのチューナーにも入ってもらった結果、車の出来が良くなったといえるのではないでしょうか。
――現在搭載しているバッテリーはどのような特徴があるのでしょうか。
これまでのEV用バッテリーはニッケル、マンガン、コバルトを正極材として使った3元系のものでした。この電池は容積当たりのエネルギー密度は高いものの、希少金属を使っていたのでコストが高くついていました。そこでBYDは、鉄が主原料のLFB(リン酸鉄)バッテリーにしました。
このバッテリーは希少金属を3元系ほど使わないのでコストが安い利点があります。しかし、エネルギー密度が3元系の7割ほどしかないのです。そこでBYDは細長い板状のものを使って床に隙間なく敷き詰めました。そうすることで低重心の車になって、高級車のような安定感が出せます。
――自動車保険の取り扱い会社として損保ジャパンがありますが、同社は不祥事が発覚したビッグモーターとの深い関係が指摘されています。BYDとして取り扱い会社の関係を見直す考えはありませんか。
金融庁の監査が損保ジャパンに入って、罰則だけでなく業務停止命令のようなものが出される事態になったら、当然、取り扱いを変えなければならないかもしれませんが、いまはまだその段階ではないと思います。
損保ジャパンが取り扱う自動車保険のマジョリティーがビッグモーターではありません。37人出向しながら罰金の不正を見抜けなかったことは何らかの社会的責任は負わなければならないかもしれませんが、いまの時点で自動車保険に関して損保ジャパンの変更は考えていません。
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