中小・零細を支える謎の「フルタイムパート」 就業規則の規定に合致しない存在だが、問題は?:フルタイムのパート社員という矛盾(2/3 ページ)
正社員と同じ時間働いているのに扱いは「パートタイマー」という働き手がいます。彼らの問題移転と企業側の対応策について解説します。
「同一労働・同一賃金」観点での問題は?
パートタイム・有期雇用労働法では、正社員とパートタイム労働者などの非正規雇用労働者との間で不合理な待遇差を設けることを禁止しています。よって、就業規則の記載を工夫して曖昧さを排除したとしても、実際に正社員と同様の働き方を求めている場合は待遇面において差があることが問題となります。
同法第8条で以下のように正社員とのバランスを求めています。
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の
(1)業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)
(2)当該職務の内容及び配置の変更の範囲
(3)その他の事情
のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
さらに実質的に正社員と差がない働き方の場合は、待遇面で差があること自体がダメと定めているのが同法第9条です。
(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
具体的には以下のチャートで確認していきます。
- (1)職務の内容(業務の内容と責任の程度)が同じかどうか
- (2)職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組みや運用など)が同じか
これらから実質的に正社員と同様の働き方をしているフルタイムパートであれば、就業規則の規定にかかわらず、賞与や退職金の支払いが必要になります。
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