生成AIをMBOに活用 レコチョクが示す「新時代の働き方」:200人の約半数がエンジニア(2/2 ページ)
レコチョク執行役員で、次世代ビジネス推進部部長も兼任する松嶋陽太さんと、同エンジニアリングマネージャーの横田直也さんに、生成AIをMBO(目標管理制度)に活用する方法について聞いた。
経営層は「生成AI改革」をどう見ている?
――松嶋部長は執行役員でもいらっしゃいます。経営層は生成AIによる改革をどう受け止めているのでしょうか。
松嶋: 最初は私が「これめっちゃいいよ」と話をしても「また始まった」みたいな感じだったと思うのですが(笑)。継続的に業務効率化に活用できて、最終的に音楽業界に貢献するプロダクトを出せるといった話を続けていくうちに、理解が進んだと思います。
横田: トップダウンだけでなく、ボトムアップの動きもあります。現場のエンジニアの人が「これすごくいいんですけど」と言って提案してきた例もたくさんあるので、それこそ上から話が降りてきているところもあるし、下からの提案もあります。
社内のTeamsの掲示板でも国内外の最新AI情報や活用事例が飛び交っています。ですから今は本当にサンドイッチ方式じゃないですけど、上からも下からも会社に浸透し始めているところになります。
――横田さんは最初、松嶋部長から生成AIの話があった時に、どのような印象を抱きましたか。
横田: 松嶋さんから「こういうのがあるよ」と聞き、プログラミングで使い始めたのですが、当時は精度も良くないし、正しい回答が返ってくるわけでもありませんでした。それでも、実際に使い始めてみると、結構ストレスが減るんですよね。
どのようにストレスが減ったかというと、プログラミングを書いているとよくエラーが出るのですが、今まではそのエラーの原因を調べるなど特定に時間がかかっていました。これが生成AIだと、そのプログラミングをするエディタの中のチャットで「これってどういうエラー?」と聞くと、一発で答えが返ってくるわけです。そういう事実がありますね。
――ただハルシネーションのように、生成AIの正確性の問題はありますよね。
横田: AIは常に100%正しい回答を返してくるかというと、そうではありません。そこを判断できるエンジニアじゃないと、使いこなせない部分があると思います。
――レコチョクの社員は約半数がエンジニアなわけですが、その人員を生成AIによって減らすことはあるのでしょうか。
松嶋: 減らすといったことではなく、生成AIの採用による効率化で、本来の業務であるもっとクリエイティブな業務に集中させることが目的です。
レコチョクは「音楽業界のIT部門」をうたっています。新しい技術が登場した際に、エンジニア側が「こういうことができる可能性があるよ」と、会社ないし音楽業界に向けて提案していく必要があります。
先ほどお話ししたドキュメントの作成などは生成AIになるべく任せて、情報収集を含めて新しい技術にトライするところにリソースを割り振っていきたいですね。
――レコチョクのようにエンジニアが多い会社はリテラシーも高いと思います。営業系の多い中堅企業が生成AIを活用するには、どんな活用方法が考えられるのでしょうか。
松嶋: 弊社が10月から取り組んでいるのが、従業員のMBOにおける生成AIの活用です。これは全社員に生成AIに触れてもらうための施策でもあります。
MBOは評価する際に目標の書き方が適切じゃないと正しい評価ができません。そのため「目標設定の書き方が駄目」「KPIないじゃん」といったような形で都度マネージャーが部下に指導し修正することになります。
このマネージャーの工数を減らすために、社員にはMBOに記入する前に、MBO対応用の共有プロンプトに沿って生成AIに入力してもらうことにしました。そうすると生成AI側でNGワードを設定していますので、抽象度が高いNGワードを入力したり具体性に乏しい入力内容だったりした場合に、生成AIが「こう変えた方がいいですよ」「こう書いた方がいいですよ」と指摘してくれるわけです。
――自分の評価に関わる話ですから、皆さん真剣にやりますよね。
松嶋: 最終的にはマネージャーとコミュニケーションを取りながら目標設定する形になりますが、同じような「よくある指摘事項」を防げるだけでも相当な負担軽減になりますし、本来の目標設定の話し合いに時間を割いてもらえます。
――生成AIブームもあり、近年エンジニアの獲得競争が起きています。企業が人を選ぶのではなく、優秀なエンジニアが企業を選ぶ現象も起きています。レコチョクでは採用の際、何を志願者にアピールしていますか。
松嶋: 採用の際は「IT業界」という枠で見られてしまうと、ネットの大手企業に取られてしまいます(笑)。われわれは音楽業界に特化したIT企業ですので、音楽が好き、音楽に関わる仕事をしたいという人たちには、魅力的に映ると思います。200人くらいの規模感もアピールしています。このくらいだと柔軟にいろいろな新しい挑戦もできます。
実際に横田のように、ネット大手を渡り歩いたあとに、音楽が好きということでレコチョクを選んでくれた人もいます。音楽業界のベンチャースピリッツみたいな部分を、みんな持っているのが弊社の強みと言えますね。
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