名作ゲームの“いいとこ取り”を徹底? 中国発『原神』の人気を探る:エンタメ×ビジネスを科学する(2/2 ページ)
人気が衰えるところを見せない中国発のゲーム『原神』。ここまで巨大なコンテンツとなった理由を解剖する。前編。
新キャラクターの積極投入と「掛け算」で拡がる世界観
20年のサービス開始当初は20人程度であった操作可能なキャラクターは、現在では70人以上にまで増加した。それぞれ個性的な容姿や性格、キャラクター同士の関係性などがつくりこまれており、いずれもキャラクターにまつわるストーリーと併せて実装されることで、プレイヤーに魅力が伝わりやすくなっている。
キャラクターを順次追加する設計はスマートフォン向けのソーシャルゲームでは一般的であり、追加方法であるいわゆる「ガチャ」型の集金モデルも特段珍しいものではない。ただし原神の特徴として、戦闘システムが各キャラクターごとに設定された元素(他のゲームでいう属性に相当する)の組み合わせが重要な要素となっており、キャラクター同士の人間関係とあいまって重層的な楽しみ方をもたらしている。
マルチプラットフォーム・多言語対応によるグローバル市場へのアプローチ
原神は20年9月のサービス開始当初からiOS、Android、PC、PS4でプレイ可能であり、翌21年にはPS5にも対応した。これにより、ライト層からコア層まで、また流通の関係で据え置きゲーム機や高性能のPCが手に入りにくい地域においてもアプローチできるようになった。
プラットフォームと同時に言語面の対応も細かに行われている。原神は、ゲーム内テキストは13言語、ゲーム内ボイスは4言語に対応しており、テキストとボイスの言語は任意の組み合わせが可能である。
mihoyoは、より広範囲のプレイヤーへアプローチするため、各言語の翻訳やローカライズに相当の時間と労力をかけたと語っており、この言語対応と先に述べたマルチプラットフォームにより、広範囲の国・地域のプレイヤー獲得が可能となった。
また言語以外においても、血の表現をおさえる(中国)、ガチャの確率や報酬をゲーム内で公開する(日本)など、各国の法規制・ガイドラインなどの対応も細かく行っている。
なお前述した各国プレイヤーへの調査では、母国語がボイスにない場合は日本語ボイスを選択するプレイヤーが最も多く、また母国語が英語・中国語・韓国語であってもボイスは日本語を選択するプレイヤーも一定数存在した。その理由は日本語音声のアニメを母国語字幕で見る習慣がすでにあることと、アジアを中心に知名度がある日本人声優が出演していることが主な要因であり、この点でも日本アニメの影響をうかがい知ることができる。
普段ゲームをプレイしている方であればご理解いただけるだろうが、本章で述べた要素は個々に見れば特段珍しいものではなく、先例は数多く存在する。原神の製作チームも、『ゼルダの伝説』『GTA』などにインスピレーションを受けたことを公式に発言しており、多くのオープンワールドゲームを実際にプレイして研究したと述べている。
しかし、個々の要素は既存のものであっても、これら全てを組み合わせたゲームの前例はなかった。据え置き機などでプレイするのが前提だったオープンワールドRPGと、スマホ向けゲーム特有のガチャ型の集金モデル、日本メーカーが得意としていたアニメ調の画風、そしてマルチプラットフォームと多言語対応――。過去の名作を研究し尽くし、これらのエッセンスを抽出し、融合させたことが勝因の一つといえるだろう。
後編では「コア層育成よりも離脱防止を重視した運営と設計」「計画的・継続的なアップデートとwebサービスを活用したプロモーション」について解説する。
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