「生成AI×NFT」でエンタメビジネスはどう変わる? レコチョク責任者が明かす未来(1/2 ページ)
生成AI×NFTによってビジネスはどう変わるのか。レコチョク執行役員の松嶋陽太さんと、同エンジニアリングマネージャーの横田直也さんに聞いた。
「音楽業界のIT部門」を掲げ、音楽業界でいち早く新規技術の導入を進めてきたレコチョク。2002年には「着うた」の配信を始め、10年からはスマホ向け音楽ダウンロード、13年からはストリーミングでの音楽配信事業を展開している。21年から音楽などエンタメ業界に向けたECソリューション事業へ事業を拡大した。
新しいものを何でも取り入れる社内風土が強みで、社内の約半数をエンジニアが占める。
今は生成AIに注力していて、NFT(非代替性トークン)をいかに音楽業界に生かせるのかを模索中だ。既にレコチョクの自社基盤でNFTの発行・販売やNFTそのものをチケットに活用したサービスを展開している。
4回目は、生成AI×NFTによってビジネスはどう変わるのかを、レコチョク執行役員で、次世代ビジネス推進部の部長も兼ねる松嶋陽太さんと、同エンジニアリングマネージャーの横田直也さんに聞いた。
松嶋陽太(まつしま・ようた)1973年生まれ。96年大手システム系企業にエンジニアとして就職。その後、学生時代に学んだプログラミングスキルを生かしてフリーのプログラマー、ベンチャー企業を複数立ち上げるなど多くの企業で実績を重ねる。2009年レコチョクに入社。エンジニアの内製化推進、サービスのAWS(Amazon Web Services)全面移行プロジェクトの責任者を務める。21年にweb3プロジェクトを立ち上げ、22年より自社基盤でのNFT提供開始。現在「次世代ビジネス推進部」部長としてNFT、メタバース、生成AIに関するプロジェクトをリードしている。レコチョク執行役員
横田直也(よこた・なおや)1984年生まれ。2007年にヤフーでエンジニアとしてのキャリアをスタート、12年よりサイバーエージェント、14年にレコチョクへ入社。配信基盤のリニューアル、サービスのAWSへの全面移行、アプリ開発などフルスタックエンジニア兼マネージャーとして勤務。21年からweb3プロジェクトを立ち上げ、自社基盤でのNFT発行、23年にはダイナミックNFTの技術を活用して、日本初となるチケット本体をNFTを使ったサービスを事業化。現在は生成AIの全社活用にも取り組んでいる
生成AIで新たなビジネスモデルが生まれる
――松嶋さんや横田さんがいる「次世代ビジネス推進部」はどんなことをやっている部署なのでしょうか。
松嶋: 21年にNFTが盛り上がってきたときから、われわれは音楽業界の中でかなり早く適応してサービスを展開してきました。次世代ビジネス推進部は、新しいテクノロジーを音楽業界にいかに展開できるかを研究開発する部隊といえます。NFTの活用を中心にweb3関連全体の研究開発をしていました。23年に入って生成AIが注目されるようになり、AIも一緒に開発、活用していく形になりました。
部署には現在15人近くの人材がいます。エンジニアだけでなくビジネス担当もいて、日々議論を交わすようなチームになっています。
――NFT分野への活用では、既にチケットをはじめさまざまな分野でサービスを始めています。どういったところから展開していったのでしょうか。
松嶋: NFTにおける当社のポートフォリオは徐々に変わってきています。第1弾として始めたのが、22年1月に「murket(ミューケット)」というレコチョクが運営する音楽業界向けのワンストップECソリューションで、NFTアイテムの販売機能を追加したことですね。
このmurketでは、レコード会社をはじめ音楽業界やエンタメ企業を中心に直販ストアを運営できます。ここでストアを開設された企業であれば、ストア内で日本円でNFTを販売することが可能です。
――murketはどんなサイトなのでしょうか。
松嶋: レコード会社やアーティストが直販ストアを構築できるソリューションです。各ストアでは、CDやグッズなどフィジカルをはじめ、デジタル音源やライブ映像、画像コンテンツなどをサイト上で販売することが可能です。ここにNFTが22年1月に加わった形ですね。
――生成AIは一気に注目され、企業の導入も続々と進んでいます。これに対してNFTはなかなか広まらない印象です。B2Bだけでなく、B2Cでもさまざまな壁があるように思うのですが、何が課題なのでしょうか。
松嶋: UX(ユーザー体験)の課題など乗り換えないといけない課題は沢山ありますが、その中でも「そのNFTを持つことが価値になる」という状況に至ってないのが一番の課題だと思っています。その解決方法の一つとしてメタバースには期待しています。メタバースの世界になればNFTがその世界で通貨やアイテムとして使えるようになり、その価値が多くの人に理解されるのですが、まだ時代がそこまで追いついていないのが現状かと思います。
――生成AIが登場する以前はメタバースの議論が進んでいました。メタバースの展望についてはどう見ていますか。
松嶋: メタバースをクリエイティブ分野で活用しようとすると、コストがすごくかかるんですよね。ここがネックだと言えました。ただ、あと2〜3年すると生成AIによってメタバース環境がもっと制作しやすくなります。そうなると、より低コストでできるようになると思います。そういった背景からもNFTがこれまで以上に注目されるようになるのではないでしょうか。3年から5年ぐらいのスパンで、もう1度NFTのブレークポイントが来ると思っています。
次世代ビジネス推進部としてはメタバースとAIとブロックチェーン。この3つをセットで考えています。この3つが最大化することで、音楽業界での利用も活性化すると思います。
――23年3月からは、NFTによるチケットソリューション「レコチョクチケット」を始めています。
松嶋: これは横田が作りました。社内では「横田チケット」とも呼ばれ、彼の思いが詰まっています。
横田: 「NFTだけだとつまらない」という思いがあり、NFTに新しいプラスアルファを導入したく、それを考えて開発しました。
――ライブチケットにNFTを特典として付けるやり方は楽天NFT(Rakuten NFT)などの例があると思います。「レコチョクチケット」はどう違うのでしょうか。
横田: レコチョクチケットはチケットそのものがNFTになっています。そしてNFT自体がチケットの役割をするような機能を入れ込んであります。NFTにひも付く画像が入場に必要なQRコードになっているのですが、公演入場時にこれを読み取り機にかざすとチケットをもぎったことになります。
NFTのデータ上も入場した扱いになるだけでなく、ダイナミックNFTという技術を採用していて、画像ももぎった後は異なった画像に変わるようになっています。まさに、紙チケットの体験と同じことが、デジタル上で再現されるわけです。
――B2Bの観点では、それで入場状況が管理できるわけですね。
横田: それで管理できます。誰が今入場していて、誰が入っていないのかもリアルタイムで分かります。
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