若者こそ「忘年会したい!」 それでも昭和の上司が勘違いしてはいけないワケ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
「忘年会に参加したい派」の割合が最も多いのは20代──そんな驚きの結果が、Job総研の調査で明らかになった。コロナ禍の影響で「人と会って話したい」欲望を持つ若者が増えているようだ。しかし、何のためにどのような忘年会をやるのか、部下とどのようにコミュニケーションすべきかについて、気を付けるべきこともあって……。
昨日の飲み会って、残業代は出ますよね?
実は過去にも、若い社員の「飲み会の参加意欲」が高まった年があります。「アベノミクス」で、国内の経済指標が軒並み好転した2013年の忘年会と年明けの新年会です。
当時の私のメモを見返したところ、新入社員を対象に実施したアンケートで8割近くが「上司と飲みたい」と回答。私のインタビューの協力者の中にも、「上司と部下の親睦を深めるために、今年は忘年会を行いました!」「会社もリーマンで大変でしたけど、やっと軌道に乗りはじめたので新年会をやります!」「うちの会社でも、風通しのいい会社にしよう! と全員参加の忘年会がやりました!」と、会社の飲み会を計画する上司たちが増えていました。
ところが、です。その中に「昨日の飲み会って、残業代は出ますよね? って言われちゃって」と、嘆く男性=上司がいたのです。
飲み会の翌朝、部下に「上司から言われてやることは、全て業務ですよね? 当然、残業代が出るんだと思っていました」と言われた、と。
男性はなんとかその場を「参加したくないときは断っていい。昨日の残業代は出ない。申し訳なかった」と説き伏せたそうですが、「今どきの部下の扱いは、常識が通じない。残業代なんて出るわけないですよね」と話していました。
……「今どきの部下」。上司が好んで使う言葉です。
確かに、 バブル時代を闊歩(かっぽ)した新人たちが「残業代って出ますよね?」と飲み会の翌日、上司に聞くことはありませんでした。しかしながら、心の中でそう思っていた人はいたのではないでしょうか。
そもそも昭和の職場で「飲みニケーション」が成立していたのは、会社が一つのコミュニティとして機能し、お酒が、上司と部下をいい関係にさせる潤滑油となっていたからです。
会社にとって社員は「大切な人」だった。「安心して働きなさい」と社員を雇い続けていたし、「経験」という数字に反映されにくい力を、ちゃんと評価する年功序列という制度もあった。だからこそ、社員は会社のために頑張った。そこには会社へのコミットメントが存在しました。
「会社と社員の思いが共有されている」という前提のもと、上司=ベテラン社員は、部下=若い社員を自分のテリトリーに連れまわり、部下は上司と行動を共にすることで、仕事のやり方、交渉の仕方、上の人との接し方、ときには酒の飲み方や店員さんとの関わり方まで学びました。上司が部下を育て、先輩が後輩を育てるのは会社員の仕事であり「美徳」だったのです。
だからこそ、忘年会で「みんな今年もお疲れさま!」とお互いにねぎらい、新年会で「みんな今年も一緒に頑張ろう!」と結束できました。
関連記事
- 管理職は「感情労働」 反発する部下やプレッシャーをかける上司と、どう戦う?
業務量の増加や世代間ギャップなど、管理職の悩みは尽きない。生き残りに必死でプレッシャーをかけてくる上司や経営層と、労働環境に不満をため込む部下に挟まれ、現場で孤軍奮闘する。そんな現実の中、管理職はどのように自分の仕事をとらえ、働くべきなのか──? - ハラスメントを恐れるあまり……中高年が自ら「働かないおじさん」になる現象
「働かないおじさん問題」が言及されて久しい。中高年の社員がやる気を失ってしまう一因として、下の世代に対する過剰な気遣いや、ハラスメントへの恐怖があるのではないだろうか。中高年の社員が置かれている現状を変えるには、どうしたらいいのか。 - 「部下が身勝手だ」と怒る“昭和の上司”が知らない、“令和の部下”の育て方
残業はやりたくない、異動もしたくない、出世なんてまっぴら──そんな新しい価値観を持つ“令和の部下”と、“昭和の上司”とのすれ違いが起きている会社は少なくないでしょう。なぜ、“令和の部下”は気ままに振る舞うのか? どうしたら、理解し合うことができるのか? 河合薫氏が解説します。 - 「悪気はなかった」は通用しない ハラスメントする人が無意識に押し付ける“思い込み”とは?
管理職として異動してきたAさん。早くメンバーと親しくなろうと一生懸命コミュニケーションを取りました。ところが、ある日突然、Aさんは人事部から「ハラスメント行為を行った」と呼び出されたのです。 - 自爆営業の推奨、未達成で給与減額──「過度なノルマ」は違法にならないの?
私が働く業界は、伝統的に営業ノルマが厳しい業界です。パワハラまがいの叱責、自爆営業の推奨、ペナルティとしての給与減額、ノルマ未達成を理由とした退職の推奨など──「過度なノルマ」は違法にならないのでしょうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.