若者こそ「忘年会したい!」 それでも昭和の上司が勘違いしてはいけないワケ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
「忘年会に参加したい派」の割合が最も多いのは20代──そんな驚きの結果が、Job総研の調査で明らかになった。コロナ禍の影響で「人と会って話したい」欲望を持つ若者が増えているようだ。しかし、何のためにどのような忘年会をやるのか、部下とどのようにコミュニケーションすべきかについて、気を付けるべきこともあって……。
美徳は消滅した──今必要なものは?
しかし、1990年代以降会社にとって社員はコストとなり、年功序列が消え、成果主義になり、いつしか「部下も後輩もライバル」になった。社員と会社との関係が変わり、上司と部下の関係も変わらざるを得なくなり、美徳は消滅したのです。
そんな中での「お酒」は、上司と部下を“いい関係”にさせる潤滑油にはなりません。飲み会をやったからといって上司と部下の親睦が深まるわけじゃないのです。オフィス以外の場所=居酒屋で、職場ではできない話をしたり、職場では見ることのないお互いの“顔“を知ることは、働きやすさにつながる可能性はあります。
だからといって、職場やチームの結束に「お酒」が不可欠ではないのです。
チーム力を高めたいだけなら、会社でやればいい。業務時間内に、食事会をすればいい。
「でも、お酒が入ったほうがリラックスするし……」って? 酒を飲んでリラックスするのは、上司だけ。部下は緊張するだけです。
もちろんときには、飲み会がきっかけとなり、職場でも話がしやすくなったり、コミュニケーションがうまく取れるようになるかもしれない。大切なのは、「上司・部下」だの、役職のヒエラルキーなどに関係なく、ただの「人」として向き合う時間を共有できるか否かです。
例えば、米国でもチーム作りを目的にクリスマスや新年に、ワインを片手に食事をする機会はあります。ただし、職場で業務内に行われ、最初だけいて途中で帰る人もいるし、若手が最後まで残らなきゃいけない、なんてこともない。先に帰る人は自分の分は片付け、最後までいた人は役職やら年齢やらに関係なく、みんなで片付けをする。ボスが最後まで残っている場合もあるし、会社によっては家族などを同伴させるケースもあります。
企業によってはホテルなどでやる場合もありますが、会社側から招待状が届き、行きたい人だけがいく。米国はパーティ文化ですから、それぞれドレスアップして参加し、バンドを呼んだりして、トップや表彰された人のスピーチが終わったら、自由に飲んだり食べたりして、最後はダンスパーティという流れが一般的です。
職場で行う場合もホテルの場合も「部下が上司にお酒を注ぐ」「グラスが空いた人に次の飲み物を聞く」「席順を気にする」などと、プレッシャーを感じる必要はないのです。気が付いた人が声をかける。上が下を気遣う、男性が女性をもてなす、といったケースが多いように思います。
「つながることへの投資」を成功させられるか
いずれにせよ、コロナが明けてから「社員の結束を高めたい」「新入社員を辞めさせたくない」「会社の風通しをよくしたい」と、仕事以外のつながりをつくる努力をする企業は増えています。
「社員旅行」や「運動会」を復活させたり、「駅伝大会」や「マラソン大会」をやってみたり、中には「部活」を始めた企業もありました。
そういった「つながることへの投資」が成功している企業のトップには、共通して「すべての社員が生き生きと働ける職場を作る!」という熱い思いと覚悟がありました。
「敬意、信頼、共感」という経営の三原則を決して忘れず、社員の「顔」をちゃんとみて、「誰もが立派な会社員」というメッセージを社員に送り続けていました。
そういう会社では、わざわざ飲み会の場を設けなくとも、上司と部下という役職やヒエラルキーを越えた“人”としての、つながりがある。酒の力など借りなくとも、ちゃんと互いに通じ合い、寄り添える瞬間が存在します。
その先にたまたま「じゃ、一杯やろうか」とか「酒でも飲みながら、ちょっと話をするか」と、職場ではなかなか話せないことやら、就業内では持てなかった時間を補うための飲み会がある。プラスを補うために酒場を利用するから、飲みにケーションが意味を持つのです。
ちなみに先の調査では、「忘年会は必要か?」との問いに、50.3%が「必要ない」と答え、内訳は「全く必要ない」21.6%、「必要ない」14.7%、「どちらかといえば必要ない」14.0%だったそうです。
さて、みなさんの会社では、何のために忘年会をやるのでしょうか。
今一度考えてみてください。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
管理職は「感情労働」 反発する部下やプレッシャーをかける上司と、どう戦う?
業務量の増加や世代間ギャップなど、管理職の悩みは尽きない。生き残りに必死でプレッシャーをかけてくる上司や経営層と、労働環境に不満をため込む部下に挟まれ、現場で孤軍奮闘する。そんな現実の中、管理職はどのように自分の仕事をとらえ、働くべきなのか──?
ハラスメントを恐れるあまり……中高年が自ら「働かないおじさん」になる現象
「働かないおじさん問題」が言及されて久しい。中高年の社員がやる気を失ってしまう一因として、下の世代に対する過剰な気遣いや、ハラスメントへの恐怖があるのではないだろうか。中高年の社員が置かれている現状を変えるには、どうしたらいいのか。
「部下が身勝手だ」と怒る“昭和の上司”が知らない、“令和の部下”の育て方
残業はやりたくない、異動もしたくない、出世なんてまっぴら──そんな新しい価値観を持つ“令和の部下”と、“昭和の上司”とのすれ違いが起きている会社は少なくないでしょう。なぜ、“令和の部下”は気ままに振る舞うのか? どうしたら、理解し合うことができるのか? 河合薫氏が解説します。
「悪気はなかった」は通用しない ハラスメントする人が無意識に押し付ける“思い込み”とは?
管理職として異動してきたAさん。早くメンバーと親しくなろうと一生懸命コミュニケーションを取りました。ところが、ある日突然、Aさんは人事部から「ハラスメント行為を行った」と呼び出されたのです。
自爆営業の推奨、未達成で給与減額──「過度なノルマ」は違法にならないの?
私が働く業界は、伝統的に営業ノルマが厳しい業界です。パワハラまがいの叱責、自爆営業の推奨、ペナルティとしての給与減額、ノルマ未達成を理由とした退職の推奨など──「過度なノルマ」は違法にならないのでしょうか?
