AIに「全てを任せた」あとに残る未来は? 想定を超える、その脅威:働き方の見取り図(2/4 ページ)
米カリフォルニア州で自動運転タクシーの事故が発生。テクノロジーの急激な発展が、行き過ぎた仕事の代替という新たな問題を生み出している。人間は、AIや機械にどう仕事を任せればよいのか。
事故だけではない「AIの脅威」
安全を脅かす要素となるポイントの1つ目は、事故。カリフォルニア州の自動運転タクシーが営業許可を取り消された一件では、人間の運転よりも安全性が高いはずの無人タクシーが、他の車にはねられた歩行者をさらにひき、その上に乗ったまま停車するといった事故が起きました。
次に、差別。2018年に米Amazonは自社開発したAI活用の採用システムに女性を不当に差別する欠陥が見つかったとして運用をとりやめました。23年にはニューヨーク市でAIを活用した自動雇用決定ツール(AEDT)の使用を規制する条例が施行されています。
そして、権利侵害。生成AIの登場で、文章やイラスト、画像、動画といった生成物が著作権などの知的財産権を侵害する可能性が懸念されています。俳優や演出家、音楽家などが加入する日本芸能従事者協会が行った「AIリテラシーに関する全クリエイターのアンケート」によると、AIによる権利侵害などの弊害に「不安がある」と回答した人の割合は93.8%に上りました。
仮に性能上の安全性は人間が行うより高いことが証明されたとしても、事故・差別・権利侵害といった脅威がゼロになるわけではありません。AIや機械に仕事を任せることで成果の最大化が見込まれる一方、安全性とのジレンマは職場のさまざまな場面で生じます。
例えば、人事考課で昇格候補者を決定する際、候補者の選定をAIに任せれば、人間は候補者の中から選ぶ仕事だけに専念できます。しかし、AIが過去の昇格者データの偏りを補正できず、選定された候補者に性別や学歴など不当な偏りが生じるかもしれません。
Webサイトのコンテンツを充実させるために、業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)と生成AIとを連動させれば、画像や動画、記事などを自動的にアップし続けることも可能です。その分人間は他の仕事に専念できますが、任せきりにするとクリエイターの権利侵害などが懸念されます。
保育や介護を任せられるAIロボットが発明された場合、人手不足の職種だけに仕事を任せたくなるかもしれません。しかし、一度でも誤作動が起きれば、子どもや高齢者、障害者の身に危険が及ぶことになります。
これらの脅威は担い手が人間であっても起こり得ますが、万一、人の安全性が脅かされる事態が起きたら「仕方ない」と割り切れるかどうかは疑問です。AIや機械に仕事を任せるには、相応の配慮が必要です。
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