本当の「消費」といえるのか? 大手百貨店の増収増益を手放しで賞賛できないワケ:小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ)
物価上昇に多くの消費者が苦労している一方、好調を報じられているのが百貨店業界だ。長年、売り上げの右肩下がりが続き、構造不況業種ともいわれていた上に、コロナ禍で甚大なダメージを受けた百貨店業界。本当に回復期を迎えているのか、その現状を見てみよう。
物価上昇に、賃金の引き上げが追い付かないインフレ環境になって久しい。物価上昇を加味した実質賃金は9月統計で、18カ月連続前年比マイナスとなっている(図表1)。
今回の値上がりが生活必需品である食品やエネルギーを中心としていることから、特に低所得層への影響は大きく、支出の見直しと節約を余儀なくされている。買い物時には、消費者が買い上げ点数を減らしているというデータもあり、多くの消費者が家計のやりくりに苦労しているようだ。生活必需品への支出の負担が増え続けているため、今後は耐久消費財の先送り、外食頻度の減少といった影響も予想されている。関連する業種の企業は戦々恐々だろう。
しかし、こんな状況にもかかわらず「コロナ前超え」「過去最高」といったキーワードで好調を報じられているのが百貨店業界だ。長年、売り上げの右肩下がりが続き、構造不況業種ともいわれていた上に、コロナ禍で甚大なダメージを受けた百貨店業界。本当に回復期を迎えているのか、その現状を見てみよう。
百貨店業界、好調を支える2つの要因
ニュースで報じられる大手百貨店の三越伊勢丹、高島屋、Jフロントリテイリング(大丸松坂屋)などの業績は、コロナ禍からの反動もあるが増収増益で、三越伊勢丹のように過去最高売上を達成しているところもある(図表2)。その要因とされているのが(1)帰ってきたインバウンド消費、(2)富裕層による高額品消費、である。
インバウンド消費の回復は、大都市ターミナルに急増した外国人観光客の姿を目にしている人には納得のいく話だろう。百貨店協会のデータにも明確に表れており、最近はコロナ前の2019年の実績を大きく上回る勢いである(図表3)。円安環境がかなり追い風になっているとはいえ、インバウンド需要は今後も安定的に拡大すると考えられる。百貨店売上を下支えしてくれることは間違いないだろう。
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