本当の「消費」といえるのか? 大手百貨店の増収増益を手放しで賞賛できないワケ:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
物価上昇に多くの消費者が苦労している一方、好調を報じられているのが百貨店業界だ。長年、売り上げの右肩下がりが続き、構造不況業種ともいわれていた上に、コロナ禍で甚大なダメージを受けた百貨店業界。本当に回復期を迎えているのか、その現状を見てみよう。
高額品消費が好調な背景
富裕層による高額品消費の回復についても、データで確認できる。図表4は、大手百貨店の基幹店が名を連ねている東京地区の百貨店売上(23年7〜9月)を、商品別にコロナ前(19年同期)と比較したものだ。
この間には、東急本店の閉店や小田急新宿の売場縮小など、域内での百貨店売場面積の減少もあり、全体としては売り上げを落としている。一方で、身のまわり品(主に海外ブランド品など)、美術・宝飾、貴金属の売り上げは大きく拡大。インバウンド分も含んだ数字ではあるが、これらの高額品は、外商を中心とした富裕層向けの消費を軸とした売り上げである。大都市の百貨店売上が、インバウンドと富裕層によって支えられている様子がみてとれるだろう。
裏を返せば、インバウンドや富裕層の影が薄い地方百貨店に、この恩恵は及んでいないということでもある。百貨店売上の対前年比増減率を大都市と地方とでグラフ化すると、その様子は顕著だ(図表5)。百貨店の売上回復は大都市のみにとどまっており、地方ではコロナ後もほとんど増えていないのである。コロナ後の百貨店の活況は、大都市≒大手百貨店に限った話なのだ。
富裕層による高額品消費が好調な背景としては、コロナ禍に膨れ上がった資金余剰にあるといわれている。図表6は、日銀統計による家計の金融資産の推移のグラフだが、順調に拡大している。
庶民からすれば実感はほとんどないと思うが、好調に推移してきた株式相場などが資産を増加させている。富裕層ほど資産が増えるという単純な理由により、カネがカネを生んできた結果といってもいいだろう。これは「資産価格の上昇によって個人消費が増加する=資産効果」という状況によって、富裕層の消費が活発になっている、という見方もあるようだ。
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