本当の「消費」といえるのか? 大手百貨店の増収増益を手放しで賞賛できないワケ:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
物価上昇に多くの消費者が苦労している一方、好調を報じられているのが百貨店業界だ。長年、売り上げの右肩下がりが続き、構造不況業種ともいわれていた上に、コロナ禍で甚大なダメージを受けた百貨店業界。本当に回復期を迎えているのか、その現状を見てみよう。
「支払調書が不要ですので……」
先日、情報収集のため、某百貨店の金製品催事に潜入してみた。さまざまなタイプの金製品があったが、その値札の横には金の含有量が何グラムと表示されている。販売員の説明によると、100万円以下くらいで小さい金細工品を子や孫にプレゼントするのに使われることが多いのだという。
会場には金の買取相場が分かるブースも併設されており、販売は「いざとなれば換金も容易ですから」と話す。極め付きは「支払調書が不要ですので……」いうようなことまで説明してくる始末。私はそちらの専門家ではないので意味は解説しないが、これもやはり投資、投機などの目的なのであって、どうも「消費」ではないことは確かだ。
著者自身は、百貨店の高級ブランド品や貴金属・宝飾品売場で商品を購入したことが、生まれてこの方一度もない。百貨店が、インバウンド需要と、富裕層の投資、投機のための店としてますます特化していくのであれば、今後もこれらの売場に足を運ぶことはないかもしれない。
コロナ後の百貨店はインバウンド、富裕層に支えられて、好調な業績回復を実現しているが、その半面、 これまでの主力商品の売り上げは減少している。図表8は業界最強の三越伊勢丹の24年度第2四半期の商品別販売額を、19年度同期と比較したものだが、一目瞭然だ。衣料品、化粧品、家庭用品、その他はコロナ前禍には戻ってはいない。三越伊勢丹でさえ「投機、投資」以外は、右肩下がりから脱してはいないのである。
好調な業績の陰に隠れた課題を直視するのか、それとも、知らぬふりをするのかで、百貨店の10年後の形は大きく変わっていくだろう。この追い風の間に、小売業としての存続基盤を再構築できないのなら、「投資」代理店に看板替えすることになるのかもしれない。ただ、この追い風は、投資対象の相場が崩れた瞬間に、即座に逆風に変わることを忘れない方がいい。
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