何が変わる? 労働時間管理から進化した健康管理へ
具体的な法改正の内容は今後の専門家の議論によるが、報告書で特に強調されているのは「健康管理」と「労使のコミュニケーション」だ。この2点について、現実に即した、より積極的なルールがつくられる可能性が高い。
まず健康管理に関して、現行法では1日8時間・週40時間を原則とする労働時間と、休憩、週休、有給休暇の規定が大きな役割を果たしている。長時間労働が健康被害につながりやすいことはさまざまな研究で明らかで、これらの規制は今後もなくならないだろう。とはいえ、現状のままではなく、リモートワークやフレックスタイム、兼業・副業の働き方をしている場合などでも運用しやすいルール作りが期待される。
報告書では「労働時間と成果がリンクしない働き方をしている労働者に対して、労働時間を厳格に管理しつつ生産性を向上させることに課題を持っている」という企業の「労働時間制度をより使いやすく柔軟にしてほしい」という希望も紹介している。
確かに、いつでもどこでも仕事のことを考えられ、プライベートな活動さえも仕事のアイデアにつながるような頭脳労働は、どこからどこまでが労働時間なのか判断が難しい。しかし、「頭脳労働者は労働時間管理なんか意味がないからやめて良い」ということではないはずだ。
むしろ、いつでもどこでも仕事モードになれるからこそ、休日も脳を休ませることができていない可能性、自分の疲れに気付かずにいる可能性を考えた方がよい。筆者としては、せめてPCでの作業や人とのミーティングなど、仕事中だと分かりやすい場面くらいは時間管理をすべきだと思う。それに加えて、睡眠の状態や心身の健康チェック、管理者との面談などで問題が生じていないかを確認するようなプロセスも、実効性のある形でルール化を期待している。
報告書では、労働者の健康に関する情報をどこまで把握して良いのか? という企業の課題感も紹介している。プライベートに関わることまで会社が把握するのは望ましくない。しかし、スマホアプリなどを利用すれば、普段は社員がセルフチェックをし、危険な兆候があれば会社も把握して面談をしたり医師を紹介する……といった仕組み作りができるはずだ。
労働組合以外にも労使コミュニケーションの手段を
報告書で「労使のコミュニケーション」の重要性が強調される背景には、個別・多様化している働き方やキャリアへのニーズに、企業も対応していこうという機運がある。同じ職場の中で働き方やキャリアコースが異なる人々が働くようになると、互いの公平性や納得性を確保するのに丁寧なコミュニケーションが必要になるというわけだ。
従来の労働法では、労働条件などを会社と交渉する主体として労働組合を想定している。報告書では、個人と会社とでは交渉力の差があるため「労働組合の果たす役割は引き続き大きい」としつつ、それ以外の多様な労使コミュニケーションの形も検討する必要性を指摘している。
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