「作文嫌い」だった小学生、AIはどうやって「楽しい」に変えたのか?:沖縄スタートアップ、ちばりよー!(3/3 ページ)
幼少期、筆者は「作文」が大の苦手だったのだが、どうやら今の小学生も同様の悩みを抱えているらしい。苦手は児童の文章は、時系列で並べただけだったり、紋切型だったりという課題があるようだ。しかし、大人になるまで作文嫌いだった筆者と異なり、彼らは県主催の体験学習を通じて「作文楽しい」を味わったらしい。どんな体験だったのか、取材した。
AIライティング支援ツール、学習とどう折り合いをつけるのか
一時期、子どもの読解力低下は大きな話題になった。AIが自身が書きたい内容を質問して、最終的に文章を作成してくれる。自分は気になった箇所を修正したり、加筆したりするだけで「自分の文章」が完成する。一歩間違えれば、成功体験ではなく、問いを立てたり、書いたり、思考したりする機会を奪ってしまうことになりかねない。
その点について、金城さんは「全ての学校活動において、子どもが自信を持てるからという理由でAIを活用するのは違うと思います。言語化する力やそれぞれの学習において必要な力は授業の中で習得していく必要があります」と前置きした上で、以下のように話した。
「従来の教育方法を続けていると、時代に合わないまま成長してしまいます。それは避けるべきです。自信を持つ・効率的にツールを使うという観点で、最先端技術やICT教育をバランスよく組み立てていくのが重要だと考えています。新しい技術や知識を効率的・効果的に活用できる子どもたちに育てる、そこを教師が見極めていければと思います」(金城さん)
また、カリスのような画期的なツールを学校で日常的に使うためには、学校や教育委員会で制限などの取り決めをする必要があるという。カリスも体験学習のために一時的に利用可能にしたのだ。制限を取っ払ってしまうと、授業中にゲームで遊んだり、SNS経由でのいじめや事件に巻き込まれたりする可能性も否定できない。現状の枠組みの中で、カリスのようなサービスを継続的に使用するのは難しい。
「現状、その環境が整っていないのが少し残念ではありますが、児童が新しいサービスに触れられたのはとてもいい体験だったと思います」(金城さん)
カリスを運営する、スタジオユリグラフの森石さんは体験を振り返ってこう話した。
「体験学習の感想文について、どこまでがカリスの力でどこまでが子どもたちの力なのか、定義するのはとても難しいです。カリスが生成した文章を見て、『これが自分の言いたかったことだ』と思いこませてしまうリスクもあると思います。本当は言いたかったことじゃないのに、あまりにもカリスが綺麗でそれらしい文章を生成してくれるからこそ、『これが言いたかったことだ』と誤認してしまう可能性はあります」(森石さん)
この懸念に対して、森石さんは「最初はそれでもいいと思っている」と話す。
「算数などのように正解があるものとは違って、文章を書くのは正解がない作業です。正しい方程式もルールもない中で、自分の言葉で表現する道筋をうまく見つけられず、先生から与えられたものを踏襲してしまうこともあります。本や文章が好きな子は自然にそのハードルを超えていきますが、苦手な子はいつまで経っても苦手のまま。今回、カリスを使うことでそういった子どもたちにも成功体験や気付きを持ってもらえたのは入り口として大事だったと思っています」(森石さん)
苦手を飛び越えるために、大きな力に助けてもらったとしてもまずは「できた」という成功体験を持つことがハードルを超えるための準備運動になるのかもしれない。もちろん、この体験だけで「できるようになった」と考えるのはもったいない。
「次のステップとして、今回で言えば、カリスが生成した文章は『本当に自分が言いたかったことなのか?』を自問することが大事だと思います。もっとこういうことが言いたい、もっと違う言い回しがしたい、などカリスと話しながら文章を作りこんでいく体験を通じて自分の感情を丁寧に言語化できるようになっていってほしいです」(森石さん)
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