三陽商会「バーバリーショック」から復活? 7期ぶり黒字の裏側:磯部孝のアパレル最前線(1/6 ページ)
三陽商会の2023年2月期連結業績は、売上高が582億円(会計基準変更前の前期は386億円)、営業損益が22億円の黒字(同10億円の赤字)、純損益が21億円の黒字(同6億6100万円の黒字)となった。本業のもうけ=営業損益が黒字になるのは7期ぶりで、「バーバリー」のライセンス事業を失って以来初となる。
三陽商会の2023年2月期連結業績は、売上高が582億円(会計基準変更前の前期は386億円)、営業損益が22億円の黒字(同10億円の赤字)、純損益が21億円の黒字(同6億6100万円の黒字)となった。本業のもうけ=営業損益が黒字になるのは7期ぶりで、「バーバリー」のライセンス事業を失って以来初となる。今期(24年2月期)は、売上高595億円、営業利益24億円、純利益22億円と、2期連続の増収増益を目指すという。
三陽商会とコートの歩み
三陽商会の歴史は古く、吉原信之が1942年に創業した。戦中だった創業当時は、ガラスやセラミックス、金属、石材などを切断するときに使われる切断砥石や、時計のガラス、ミシンなど、入手可能な原材料からさまざまな物を手掛けていた。
敗戦間もない46年、軍隊時代のつてをたどり、戦中の灯火管制に用いられた防空暗幕の材料を発見。これらを使って作られた紳士用の黒いコートが、三陽商会が作り上げたコートの記念すべき第一号となる。
ここで少し歴史的な背景を付け加えておきたい。戦中の物資不足は深刻で、衣料品も自由に買うことはできず、国が「衣料切符」を配給していた。この衣料切符12点で長袖シャツ1枚というように、決められた点数分の券と品物を交換していたのだ。敗戦後の日本は戦前からあった建築物の25%、家財道具の21%、商品や資材の24%が失われた。衣類は開戦の年の1割に満たない物しか使用できなかったそうだ。
戦後の対日感情が多少緩和した46年、海外事業運営篤志団アメリカ評議会(宗教団体、労働組合組織など13団体)が、日本・沖縄および朝鮮における救済事業を行った。後にカナダの宗教団体や全米の在留邦人、日系米国人も加わり活動を推進させたそうである。手元の資料によると衣料品は46年に240トン、47年485トン、48年969トンと、50年までに2752トンが送られた。
現在の衣料品の1年間の国内供給量が81万トン(約35億着)からすると、ありがたい救済措置とはいえ、この当時いかに衣料品が希少だったのか想像するに難しくはない。こうした状況下の中で新商品が生まれた。47年に発売された「オイルシルク・レインコート」だ。
オイルシルク・レインコートは、戦時中のパラシュートが、絹にオイル引きした軽くて丈夫なオイルシルク製だったことに着想。絹羽二重に防水のオイル加工を施したレインコートを生産した。絹の光沢をもつこのレインコートは、働く女性からの人気が殺到。47〜49年までの3年間、全国的に大流行したそうだ。
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