三陽商会「バーバリーショック」から復活? 7期ぶり黒字の裏側:磯部孝のアパレル最前線(2/6 ページ)
三陽商会の2023年2月期連結業績は、売上高が582億円(会計基準変更前の前期は386億円)、営業損益が22億円の黒字(同10億円の赤字)、純損益が21億円の黒字(同6億6100万円の黒字)となった。本業のもうけ=営業損益が黒字になるのは7期ぶりで、「バーバリー」のライセンス事業を失って以来初となる。
爆発的に売れた「ダスターコート」
そして53年に「フランスでは2月にもなるとレインコートを合オーバー(春先や秋口にちょうどいいくらいの素材で作られたコート)の様に着ます」という謳い文句で、合オーバー兼用、晴雨兼用を前面に打ち出した「ダスターコート」を販売。ちなみに、ダスターとはほこりを払うという意味で、欧米では定着していたコートのネーミングだ。
ダスターコートは発売と同時に爆発的に売れ、55年には全国規模での大ブームに。ダスターコートが一般名詞として『広辞苑』に載るほどまでに浸透した。三陽商会はその後も「ササールコート」(59年発売)、「プラスカラーコート」(65年発売)といった人気モデルを世に送り出した。
バーバリー社とのライセンス契約をスタート
戦後から19年、最初の東京オリンピックが開催された64年に三陽商会は英国バーバリー社からコートの輸入販売を始め、70年にライセンス契約をスタートさせる。
60年代は、日本のファッションに大きな変革がもたらされた頃と重なる。66年にビートルズが、67年に「ミニスカートの女王」と呼ばれたツイッギーが来日。「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれる英国発の若者文化が、日本でもブームとなった頃でもある。三陽商会が英国バーバリー社との取引を始めたのには、こうした背景も影響したのかもしれない。
実は、英国バーバリー製品を初めて日本に輸入販売したのは、書籍販売大手の丸善である。14年とのことなので、和暦に直すと大正3年。当時の日本は、第一次世界大戦の勃発により開戦当初こそ経済的打撃を受けたものの、生産力の落ちた欧米への輸出が急増し初の大戦景気に沸き始める。しかし、国内では通貨膨張から実質賃金の低下、物価高騰によって後の米騒動につながった時代だ。
丸善は直輸入にこだわり、日本人の体格に合わせたスペックの商品を別注していた。今までも2次流通で見かける「丸善のバーバリー」は、バーバリーネームに丸善のロゴをあしらったダブルネーム商品として、2004年まで日本で販売されていた。
最初に英国バーバリーを扱っていた丸善も、独占販売契約ではなかったために、三陽商会の参入を許すことになったのではないか。しかし、その3年後に三陽商会がライセンス生産による英国バーバリーを供給したことによって、「インポートの丸善とライセンス生産の三陽商会」という2つのバーバリーが共存していたのだ。
【訂正:2023年12月23日14時15分 「三陽商会」の表記に誤りがあったため、本文を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。】
そもそも輸入販売業だった丸善と、先の「ダスターコート」「ササールコート」「プラスカラーコート」といった、三陽商会のオリジナルコートの製造実績が、英国バーバリー社に認められなければ、ライセンス生産という形の契約はあり得ない。そういう意味では、英国本社お墨付きの三陽商会メイドのバーバリーが誕生したのは、その当時のこだわった物作りによる「日本製」の品質が、認められたからかもしれない。
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