三陽商会「バーバリーショック」から復活? 7期ぶり黒字の裏側:磯部孝のアパレル最前線(6/6 ページ)
三陽商会の2023年2月期連結業績は、売上高が582億円(会計基準変更前の前期は386億円)、営業損益が22億円の黒字(同10億円の赤字)、純損益が21億円の黒字(同6億6100万円の黒字)となった。本業のもうけ=営業損益が黒字になるのは7期ぶりで、「バーバリー」のライセンス事業を失って以来初となる。
7期振りの営業黒字、背景は?
三陽商会はというと、バーバリーをライセンスできていた2014年決算では売上高1109億円、営業利益で102億円あったのが、ライセンス終了後の16年決算では676億円と14年比で4割も減少してしまった。バーバリーのライセンス契約終了に伴い、ブルーレーベルの後継ブランドとして「ブルーレーベル クレストブリッジ」、ブラックレーベルの後継ブランドとして「ブラックレーベル クレストブリッジ」を新たに英国バーバリー社と契約をしていたのだが、バーバリーの冠が取れてしまったことは業績に大きく影響を及ぼしてしまった。
13年以来、4回にわたる希望退職者の募集、銀座の自社ビルの売却、大規模な店舗閉鎖などを経て7期振りの営業黒字に転じたものの、売上高は582億とバーバリーを擁した頃からは程遠い。しかし、現存ブランドのラインアップ含め、会社の規模感として現在が適正値と見る方が正しいという考え方もできる。
業績回復のきっかけはリベンジ消費とインバウンド
世界的なパンデミックが終わり外出機会の拡大からのリベンジ消費と、インバウンド客の増加もあって、都心百貨店各社の業績も軒並み好転している。訪日外国人観光客はコロナ禍前の19年の年間3100万人には届かないものの、2500万人前後と8割くらいまでは伸びる見込みだ。
三陽商会における販路別の売上構成比は百貨店が65%を占める。EC通販とアウトレットの伸びもあって、百貨店ウエイトは14年の77%から下がったものの、ブランドポートフォリオも含め、百貨店が主力なのは変わりない。都心の百貨店に押し寄せているのは、円安観光を楽しむ欧米人や、タイ、シンガポールなど東南アジアの富裕層が中心ではないかと推察する。これら百貨店の業績回復に連動するようなかたちで、三陽商会の売り上げが回復しているのだろう。
三陽商会の大きな特徴の1つは、国内に自社工場を持っていること。実際、国内工場で培わられた技術を使ったブランド「SANYOCOAT」を既に展開している。このように日本での衣料品の物作りという品質の高さと希少性を内外にアピールし、先のデサントのようなV時復活のように既存ブランドに磨きを懸けて再び輝きを取り戻すという、新たなストーリーに期待したい。
著者プロフィール
磯部孝(いそべ たかし/ファッションビジネス・コンサルタント)
1967年生まれ。1988年広島会計学院卒業後、ベビー製造卸メーカー、国内アパレル会社にて衣料品の企画、生産、営業の実務を経験。
2003年ココベイ株式会社にて、大手流通チェーンや、ブランド、商社、大手アパレルメーカー向けにコンサルティングを手掛ける。
2009年上海進出を機に上海ココベイの業務と兼任、国内外に業務を広げた。(上海ココベイは現在は閉鎖)
2020年ココベイ株式会社の代表取締役社長に就任。現在は、講談社のWebマガジン『マネー現代』などで特集記事などを執筆。
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