JR東海、JR東日本、JR西日本、JR貨物がチャレンジする次世代エネルギー 実現までは遠くても、やらねばならぬ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/7 ページ)
JR東海が12月18日、鉄道車両向け燃料電池の模擬走行試験を報道公開した。燃料は水素で大気中の酸素と反応して発電する。燃料電池は水だけが出て二酸化炭素などは発生しないため、脱炭素動力の切り札ともされる。水素エネルギーへのJR4社の取り組みを紹介し、鉄道にとっての「水素」を考えてみたい。
実験の初期段階のため車両はまだつくられていない。公開された試験は、模擬台車を使って電車の運転と同じように走らせる。いわばランニングマシンの電車版である。停止状態から「発車」して加速、時速75キロメートルに達して惰行、時速13キロメートルまで減速して再加速、再び時速75キロメートルまで達して惰行、減速、停止という内容だった。
燃料電池は、模擬台車のある実験棟から離れた場所にあった。シューシューという大きな音がしていたけれども、これは燃料電池を冷却するラジエーターと、水蒸気を放出する音だった。燃料電池そのものは大きな音を出さない。しかしラジエーターの大きさが気になる。鉄道車両の床下に置くには大きすぎる。これは実験のため大きめにしたとのこと。実験を重ねて最適なサイズが決まれば、もっと小さくなるはずだ。
JR東海が求める性能は、高山線や紀勢線などの長距離路線で、しかも20パーミル(1000メートル進むと20メートルの高低差)の急勾配区間があり、そこを高速運行すること。具体的で苛酷な条件である。分かりやすいイメージとして、ハイブリッド気動車HC85系のディーゼルエンジンを燃料電池または水素エンジンに置き換える。
22年夏にデビューしたばかりのHC85系が老朽化し、次の車両に置き換えるころには水素エネルギーを実現させたい。そうなると目標年度は20年から30年後。国を挙げてカーボンニュートラルをめざす50年にほぼ一致する。
台車の車輪の下にレールの役割をする円盤が回っている。この円盤の転がり方を変化させて、坂道などの上りにくさ、転がりやすさを再現する。ランニングマシーンの原理だ。台車の上は車体の重みを再現する骨組み。車輪の周囲のサーキュレーターは走行で受ける風を再現し、台車を冷却する。
台車だけ見ると電車の走行試験と変わらない。しかし司令室のモニターを見ると、発生した電力量、投入された水素の流量がリアルタイムで分かる。これから最高時速80キロメートル以上へ挑戦し、今後は30パーミル勾配に相当する負荷をかけていくという。
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